コンビニおもてなし6号店とオザリーナ温泉郷 その6
簡単なセレモニーが終わりまして、いよいよオザリーナ温泉郷が正式にオープンしました。
もっとも、駅馬車の第一便にはララコンベ温泉郷の関係者しか乗っていません。
まずは、その関係者に対してのお披露目をおこなうわけです。
蟻人達は、セレモニーが終わるやいなや商店街組合の建物へ向かって足早に駆けていきました。
早速仕事に取りかかるのでしょう。
残った僕達は、オザリーナに案内されてオザリーナ温泉郷を一回りしていきました。
ルア工房が工事をしてくれているだけありまして、街道やその周囲の建物はとてもしっかりした作りになっています。
どの店もすでにオープンしていまして、
「さぁさぁ皆さん、視察のついでになんか買ってってくださいな」
「良い物揃えてますよ」
そんな元気な声が聞こえてきます。
ララコンベからの視察団は、時折そのお店をのぞいたりしながら街道をぐるっと回っていきました。
このオザリーナ温泉郷の中心には、オザリーナ温泉宿があります。
その周囲には、コンビニおもてなし6号店や、駅馬車発着所、シャラ&レイレイの酒場などが軒を連ねています。
まだまだ出来たてのオザリーナ温泉郷ですが、いわゆる一等地にお店を構えることが出来たわけですので、僕としても結構嬉しかったりするんですよね。
実際、現在のコンビニおもてなしはといいますと……
本店と2号店は都市のはずれにお店を構えています。
3号店は一応街の真ん中といえますが、3号店で大々的に取り扱っている魔女魔法出版製の魔法書目当ての魔法使い達によって形成されている集落ですので、ちょっと毛色が違います。
5号店も、大きな街道に面してはいますがど真ん中と言うわけではありません。
そんなわけで、ララコンベ温泉郷に店を構えている4号店と、ここオザリーナ温泉郷に店を構えた6号店の2店舗だけが、街のど真ん中にお店を構えることが出来ている次第です。
ララコンベ温泉郷もまだ街の規模は小さいものの、定期魔道船が直行しているおかげもありまして、定住してララコンベで働く人達も増加傾向にありますので、この調子で発展していってほしいものです。
そして、そんなララコンベ同様に、このオザリーナ温泉郷も発展していってくれれば、と、思わずにいられません。
役場前へと戻ってくると、駅馬車の第二便がちょうど到着したところでした。
第二便からは、純粋なお客さんが乗ってこられています。
第一便同様に、シャラ達の荷馬車で歓迎されながら駅馬車発着所へ到着した駅馬車から、乗客が降りてきました。
正直、その数はあまり多くありません。
駅馬車の定員の4分の1といったところでしょうか。
その中に、意外な顔がありました。
「あらあら店長ちゃんじゃないの」
「あれ、オルモーリのおばちゃま?」
そうです。
オルモーリのおばちゃまです。
コンビニおもてなしでヤルメキススイーツを担当していますヤルメキスの旦那さんのパラランサのおばあさんです。
「言ってくだされば転移ドアをお使い頂きましたのに」
オルモーリのおばちゃまに、僕はそっと耳打ちしました。
他の人に転移ドアがあることを聞かれてしまうと、
「なんで利用させてくれないんだ?」
って言われかねませんからね。
すると、オルモーリのおばちゃまは
「いえいえ、おばちゃまね、ララコンベからこちらまでの道中の様子も体験させていただこうと思った次第でございますのよ。途中すっごいハンティングもみられたし、おばちゃまとっても満足」
そう言いながら嬉しそうに笑っておいでです。
どうやら、武装駅馬車が今回も良い仕事をしてくれたようですね。
ちなみに、この周辺には魔獣だけが生息していまして山賊はいません。
何しろ山の周囲は魔獣達の巣窟と化していますからね、住み着こうとした山賊達はもれなく魔獣達に追い払われたそうなんです。
念のために、駅馬車の手綱を握っているのは猿人達ですので、万が一の対策もばっちりです。
オルモーリのおばちゃまは、ニコニコしながら周囲を見回しています。
「そうねぇ……景色はいまいちだけど、さてさて、温泉宿はどうかしらねぇ」
そう言うとオルモーリのおばちゃまはそそくさと温泉宿へ入っていきました。
このオザリーナ温泉宿ですが……
温泉は最上階に設置されていますので周囲を展望出来ます。
ですのでなかなか楽しめるんじゃないかと思います。
泉質も、ララコンベと同じ物ですので悪くはありません。
となると……ここで重要なポイントになるのは、やはり料理です。
食材は、おもてなし商会を経由して提供しています。
タテガミライオンやデラマウントボアの肉など、結構貴重な食材を代金後払いで提供させてもらっています。
ファラさんには相当嫌みを言われてしまいましたけどね……ははは。
そして、この食材を料理するのは、オザリーナが実家に頭を下げて来てもらったメイドの1人です。
このメイド、名前をビィミと言いましてハーフエルフです。
なんでも各地を包丁一本で旅をしながらいろんな料理の修業をしてきたんだとか。
魔女魔法出版のダンダリンダが、
「その経験を本にしませんか?」
としつこくアプローチしているそうなのですが、
「……私、不器用ですので」
そう言って、絶対に首を縦に振らないんだとか……
作業しているのを見た事があるのですが、とにかく黙々と作業をこなしている感じです。
どこか、職人って雰囲気を感じさせる女性です。
◇◇
僕達は、その温泉宿の大広間へと通されました。
今日は、食事会までセットになっています。
ちなみに、僕の横にはパラナミオ達の姿があります。
この食事会には家族の同伴が認められていましたので、みんなを呼び寄せたんですよね。
コンビニおもてなし6号店の店内にあります転移ドアをくぐってやって来たパラナミオ達。
リョータは、アルカちゃんと手をつないでやってきました。
「りょ、りょ、りょ、リョータ様……は、は、は、恥ずかしいアルよ」
「え? 嫌だった?」
「そ、そ、そ、そんなことはないアルけど、その……」
顔を真っ赤にしてうつむいているアルカちゃんを、リョータは笑顔でエスコートしていました。
そんなみんなが揃ったところで、大広間に料理が運ばれてきました。
ララコンベ温泉宿でも使用しているお膳の上に料理が乗っているのですが……それを見た僕は、
「ほぅ……これはすごい」
思わずそう呟いてしまいました。
お肉や野菜の煮物など、様々な料理が彩り鮮やかに、かつ、見目麗しく盛り付けられています。
良い匂いも漂っていまして、まず目と鼻で料理を堪能出来た次第です。
「パパ、すっごく美味しそうですね」
パラナミオも目を輝かせていたのですが、
「あ、でも、パパの料理の次ですよ、ホントですよ」
そう付け加えることを忘れないあたり、ホント優しい子です、パラナミオってば。
皆の前にお膳が行き渡ったところで、オザリーナが挨拶をしました。
まぁ、すでに本挨拶は済んでいますので、
「これからも、両温泉郷ともに仲良く、よろしくお願いいたします」
一言そう言って頭を下げた次第です。
その後、早速みんな料理を口に運んでいきました。
僕も、それを口に運んだのですが……
「うん、これは美味しい!」
思わず感嘆の声をあげました。
どれもなかなかな味付けがされていますし、ここらでは見た事が無い料理もいくつかあります。
「パパ、すごく美味しいですね!」
パラナミオも顔を輝かせながら料理を口に運んでいます。
アルトとムツキにいたっては言葉を発する時間を惜しみながら食べ続けています。
そんな中、アルカちゃんは
「この味付けは何アルか……」
と、しっかり分析しながら食べていますね。
これは、将来が楽しみです。
料理と一緒に振る舞われているのはスアビールです。
子供達用にパラナミオサイダーもございます。
一応タクラ酒もあるのですが……これを飲んでいるのは、どうも僕だけのようですね……
会場内には、
「うん、上手いね」
「こりゃ、ララコンベもうかうかしとれんぞ」
そんな声が飛び交っています。
どうやら、皆さんの評価も上々のようですね。
この調子なら、このオザリーナ温泉郷にお客さんが来るようになるのもそう遠い先ではないかもしれません。
僕は、そんなことを考えながらタクラ酒を飲んでいました。
ついでにタクラ酒も、もうちょっと流行らないかなぁ……美味しいのに……