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やってやるぜ、大武闘大会! その6

 団体戦の表彰式が終わると本日の大会は終了です。
 明日の個人戦までしばし休憩となるわけです。

 屋台の営業許可は閉会式終了後1時間となっています。

 僕達は早速片付けを始めようとしたのですが……

 そんな屋台の前にすごい数のお客さんが殺到してこられたのです。

「おい、晩飯にするから弁当を売ってくれ!」
「スアビールを売ってくれよ、晩酌にするから」

 皆様、口々にそう言われながら屋台の前に列をなしていかれています。

 とにかく、時間がありません。

 僕は、魔王ビナスさん・パラナミオ・セーテンに手伝ってもらいまして、商品手渡し場所を4箇所に増やして対応していきました。
 ヤルメキススイーツだけは、ヤルメキス・ケロリン・アルカちゃんの3人体制で、別の場所で商品を手渡ししています。

 リョータ・アルト・ムツキやイエロ、グリアーナ達は、お客さんの列の整理にてんてこ舞いです。

 スアも、例のマスクを被った格好でお手伝いをしようとしてくれたのですが、

「む!? グレイトストロングマシンの気配がする!?」
 そんな女性の声がどこからともなく聞こえて来たものですから慌てて木箱の中に隠れていった次第です。

 パラナミオは夏の屋台を経験したことで、
 セーテンは、山賊時代からお金の勘定を得手にしていたおかげで

 思った以上に臨時手渡し係を無難にこなしてくれました。

 久々に行列整理を行ったイエロも
「さぁ、4列にならぶでござるよ」
 楽しそうに笑顔で作業を行っていました。

 後で聞いたのですが、その作業の最中にですね、

「何やらえらいちっこい女がですな、
『その細いくせにパワフルな腕、そのけしからん乳、うむ、そこの鬼人さん、キミこそ、このカオルーコの後を継ぐにふさわしい人材なのですよねぇ、一緒にジョシプロレスの星を目指すのですよねぇ』
 とまぁ、そのようなことを言ってきたでござるよ」
 なんてことがあったそうです。
「まぁ、興味がなかったでござるゆえ、弁当を買って帰っていただいたでござる」
 イエロはそう言っていたのですけど……はて、ジョシプロレス……女子プロレス?
 なんか、僕の世界でよく聞いていた単語のような気がしないでもないのですが……まぁ、気のせいですよね、うん。

◇◇

 そんなこんなで、あっという間に1時間が経過してしまいました。

 幸い、4人体制で商品私を行ったおかげで、どうにか行列の方々全員に商品を買って頂くことが出来ました。

 思った以上に弁当やスアビールが売れました。
 ヤルメキスのスイーツの売り上げもかなりのものです。 
 
「明日はもっと多めに準備しとかないといけないな」
 
 残り少なくなっていた在庫を確認しながら僕は頷いていきました。

 え?タクラ酒ですか?……えっと、タンクさんはたくさん買ってくださったんですよ、タンクさんは……
 ……タンクさん、明日も来店してくださるかなぁ……

◇◇

 明日の個人戦には、今日の団体戦に参加した3人がそのまま出場……と、いきたかったのですが、3人とも参加出来るかどうかはまだわかりません。

 個人戦の参加枠が500人なのですが、今日の団体戦に参加したのも500組です。

 500組×1チーム3名ですので、単純計算で1500名の選手がいるわけです。
 これに、個人戦だけ参加する方も少なくありません。

 そのため、

 昨年、および昨年以前に決勝トーナメントに残った人
 今日の団体戦で4位以上に入賞したチームのメンバー

 この条件の該当者は参加確定ですが、それ以外の方は、当日朝のくじ引きで決まることになっています。
 それを聞いた僕は、
「そうだ、くじ引きといえば……」
 ララコンベにある4号店のララデンテさんに来てもらいました。

 ララデンテさんは、ララコンベ一帯では神様みたいな感じで崇拝されています。
 そこで、僕の世界の神社なんかで販売していますお守りを作ってもらって4号店で試験販売しているのですが、これが好調な売れ行きなんですよ。
 
 販売しているのは、

「無病息災」
「家内安全」
「馬車安全」

 とりあえずこの3種類です。
 馬車安全は、馬車で移動しながら商売をしている人々が、その道中で危険に合わないようにって意味です。

 で、販売するお守りには、ララデンテさんが魔力を込めてくださっています。
 まぁ、すでに思念体という、僕の世界で言うところの幽霊状態のララデンテさんですので、1個1個の魔法の力は微弱ですけど、無病息災お守りを購入したお客さんが、

「あんれ、腰の痛いのがピタッと治った!?」
「膝がしゃんとなったぞい!」 

 と、まぁ、そんな感じで効果てきめんというのを口コミで広めてくださっているおかげで、その売り上げが右肩上がりなんですよ。

 ララデンテさんによると、
「間違いなく気のせいなんだけどな……そもそもあの魔法の量であんな即効性はないって」
 だそうですので……これはいわゆるあれですね、

 病は気から

 ってやつなんでしょう。

 で、そんなララデンテさんにお願いして、僕は

「くじ運向上」

 お守りを急遽作成してもらいました。

 本当はイエロ・セーテン・グリアーナの3人の分だけ作ってもらうつもりだったのですが、
「店長殿、せっかくの商機ではないか、売るべし売るべし」
 ララデンテさんってば、そう言いながらどんどんお守りを増産しちゃいまして……

◇◇

 翌朝。

 臨時販売の許可をもらった僕達は、抽選会場の近くで、お弁当と一緒にお守りを販売していました。

 やはり最初は

「こんなもんで効果があるのか?」
「怪しいもんだなぁ」
 
 そんな感じで、売れ行きはいまいちだったのですが、このお札を右手に持ったイエロが、
「いよっしゃぁ! 当たったでござる!」
 箱の中から、当たりの赤玉を引き当てたんですよ。

 しかも、

「当たったキ!」
 と、セーテンも、

「当たったでござるよぉ!」
 と、グリアーナも、

 なんと3人連続で当たりを引いたのです。

 そして3人は揃って、
「このコンビニおもてなしのお札の効果てきめんでござる!」
「キ!」
「ござるよ!」
 少々わざとらしいポーズを取りながら行列に向かって言ってくれたんです。

 すると、

「そのお守りくれ!」
「買うわ! 全部買うわ!」
「ばっきゃろ! こっちにも買わせろ!」

 列に並んでいた皆さんが一斉に僕達の前に殺到してきた次第です。

 その中にタンクさんの姿を見つけた僕は、どうにかしてタンクさんにお売りしようと思っていたのですが、タンクさんってば
「皆さん欲しがっておられるんだし……僕は遠慮しておこう」
 と、すごくお人好しな言葉を言われながら列から離れていってしまったんですよね。

 その後、外れの白玉を引いて苦笑していたタンクさんの姿を、僕は、涙なしでは見ることが出来ませんでした……

◇◇

 お守りを購入してくださったお客様の8割近くが当たりを引いたそうです。
 そのおかげで、

「コンビニおもてなしのお守りはすごいぞ」

 って噂がお客さん達や、参加者の皆さんの間に広まっていった次第です。

◇◇

 そんなわけで、朝の抽選会も無事終了しました。
 もう少ししたら大会2日目の個人戦が開始されます。

 会場内の屋台の場所へ移動した僕達は販売の準備を始めました。

 すると、
「ここですか? タテガミライオンのお肉のお弁当を販売なさっているというのは?」
 何やら、ピシッとしたワイシャツにズボン姿の男性が僕に声をかけてこられました。
 何でしょう……年齢は僕と同じくらいのようですが、すごくガッチリした体格をなさっています。
 しかも、その顔は、男の僕が見てもダンディでいかしています。
 
 その男性は、
「昨日からバトコンベで個人タク……じゃなくて、駅馬車を運行しているのですが、ご利用くださったお客様がこちらのお弁当をべた褒めなさっておられましてね。
 連れの女性達がどうしても食べたいというものですから……どうでしょう、まだ販売時間前なのですが、こっそり売っていただけませんか?」
 その男性は、そう言いながら僕に向かって目配せなさいました。
 すると、なぜか僕の後方にいたグリアーナとケロリンが真っ赤な顔をしてですね、
「あ、いや、その……殿方にそのようなウインクなどされてしまうと、困ってしまうでゴザル」
「ほわぁ……ち、ち、ち、ちょっと顔が赤くなってしまうのですぅ」
 そんな事を言いながらモジモジし始めた次第です。

 なんと言いますか……歩く天然ジゴロですね、この人。

 で、まぁ、特別にお弁当を3つ販売させて頂きました。

「ありがとうございます。駅馬車のご用命がございましたら、ぜひお声をおかけください」
 その男性はそう言いながら立ち去られました。
 それを、顔を上気させているグリアーナとケロリンがいつまでも手を振って見送っていた次第です。

 なんか、名刺を頂いたのですが、よく見る前に2人にふんだくられちゃったんですよね。

 ……なんか、レイイチロウコジンなんちゃらって書いてあったような気がするのですが……

 とまぁ、そんな感じで、もうじき正式な会場時間になります。
 僕は
「さぁ、イエロ達の応援もしつつ、販売も頑張ろう」
 そう、声をあげていきました。

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