バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

55 力を持つ者は…

『ホワイトホーリーフェンリル…。ぼくが、いやしのまほうをつかえるの?』
種族が変わったこと、癒しの魔法が使えることに驚くハク。

『ハク…』
そんな息子に静かに寄り添うギン。ギンは分かっているのだ。まだ幼いかわいい息子が、抱えきれないかもしれない大きな力と責任を背負ってしまったことに…

〖ええ。そうよ。あなたも私が一から鍛えてあげる。強い力を持つ者は責任を伴う。あなたはどうしたい?〗
フゥたちにした質問と同じことをたずねた。サーヤに名をもらい、体だけは大きくなってしまったまだ赤ん坊のハクに。

『ぼくがつよくなれば、だれかがケガしたり、びょうきになったら、みんなみんなたすけられる~?』
可愛くて、素直で、純粋なハク。優しいハクがこう思ってしまうことは分かっていたわ。でも…

〖 …その質問に答えるなら、答えは「いいえ」よ〗
あえてはっきりと否定する。

『そうなの…?』
途端にハクの耳としっぽがへたりとなってしまった。
ごめんなさいね。持ったばかりの希望の光を、直ぐに打ち砕くようなことを言わなければならないことに、いつもは感じない罪悪感を感じてしまう。だけどね?

〖これはみんなにも聞いて欲しいの。『癒しの魔法』は万能ではないのよ。世の中には助けられないもの、手を出してはいけないものもある。例えば既に間に合わなかった者、それから寿命とかね?辛いことだけど、助ける命を選ばなければならないこともある。癒しの力を得た者は心も強くならなければならないの。分かるかしら?〗

『うん~…まだむずかしいけど、すこし』
ハクは優しくて賢い。出来ればそんな辛い選択をする機会は訪れないで欲しい。でも、この世界、何が起こるか分からない。
ジーニ様はハクの前にしゃがみ、目を見つめながら話す。手は出来るだけハクを落ち着かせるように優しくハクを撫でている。

〖まだ小さな子供のあなたに、こんな覚悟を求めるのは残酷なことだと思う。だけれど、覚悟がないのなら癒しの魔法は初めから覚えない方がいい。例えば今ここにいる者全てがあなたの力を知ったことになるわけだけど、中にはあなたさえいれば大丈夫だと依存する者も出るかもしれない。でも、それはね、とってもいけないことなの〗

『……』
ハクを撫でながらジーニ様は皆を見渡す。皆、真剣に聴いている。

〖ハク、あなたはみんな助けられるかと聞いたわね?〗

『うん』こくん

〖例えば、目の前に助けなければいけない命が二つあるとするわね。でも、あなたの力では一つの命しか助けられない。助ける命と諦める命を選ばなければならない。そんな時、『どうして二つとも助けないんだ』と責める者もいるかもしれない。でも、あなたは決断しないといけないわね?だからといって自分を犠牲にしてはいけない。あなたに何かあったら泣いてしまう者がいるでしょう?〗

『うん』
しっかりとハクは理解し、うなずいている。やっぱりこの子は聡い子ね。

〖周りの者はそれを理解し、支えなければいけないわね?助けられる力があるんだからと、一人に、まして小さな子供にその責任を押し付けるようなことを、犠牲を強いるようなことは絶対にしてはいけない。この子自身もまた守られなければいけない大切な命なの〗

皆ハッとする。すでに甘えが出ていたことを自覚したのだ。これで少なくともここにいる者はハクを犠牲にするようなことはないだろう。
だが、魔神はあえて皆を見渡す。
これは他人事ではないのだと。

〖光の癒しを持つ者はたしかに珍しいけれど、水と緑の癒しを持つ者はこの中にもいるわ。何も癒しだけではない。力があればどの力でも覚悟が必要。決して悪用してはいけない。悪用すれば悲劇しか生まれない〗
魔神の視線はサーヤへ。皆がその意味を理解した。
皆の目が変わった瞬間だった。

これなら大丈夫。魔神は頷く。

〖では、ハクだけではなく、皆に聞くわね〗
ハクとギンの横に立ち並びみんなの目を見る。
みんな真っ直ぐ私を見ている。誰も目をそらさない。

〖覚悟は出来たかしら?〗

『うん。ぼくはなかまのために、おとうさんのために、サーヤのためにつよくなるよ!あとね、じぶんのこともたいせつにする!そうしないと、おとうさん、ないちゃうもんね!』
『ハク…私も共に強くなろう』
ハクの言葉を聞いてギンがハクを包み込む。
やっぱりこの子は賢い。ちゃんと分かっている。

〖その通りよ。でもね、ギンだけじゃないわ。ここにいるみんな、あなたに何かあったら泣いちゃうわよ。サーヤだって、もちろん私もよ〗
サーヤもこくこくしている。

『うん!わかった~』
〖いい子ね〗なでなで
本当にいい子だわ。

「さーにゃみょ、さーにゃみょ、がんばりゅ!」ハイハイっ
〖サーヤもいい子ね〗
「むふーっ」
ふふ。むふーっ?やる気が変な鼻息になったのか、それとも嬉しかったのかしら?

『おれも、改めて誓います。みんなの為に、自分の為にも強くなります』
『わたしも、改めて誓います。力も、心も強くなります』
フゥとクゥも、ハクを見て決意を新たにしてくれたわね。

チチッ『ぼくも!ちいさい ちからだけど がんばる』
キキッ『ぼくもだよ!ちいさくても みんなで ちからあわせればいいよ』
『『『さんせ~い』』』
小さな動物たちもやる気に満ちている。

〖ふふっいい子たちね〗
この子たちなら大丈夫。

『お願いします。我々も鍛えて下さい』
『『『お願いします』』』
森を守る魔物たちの心も決まった。

魔神は満足そうに笑みを浮かべて頷く

〖分かったわ。私たちがあなた達を鍛えてあげる。覚悟してね♪〗

私もあなた達に見合う覚悟を持って、しっかりあなた達を鍛えてあげる。


しおり