やってやるぜ、大武闘大会! その2
明日はいよいよ辺境都市バトコンベで大武闘大会が開催されます。
すでにコンビニおもてなしの屋台などの準備や、イエロ達の大会参加者の準備は整っていますし、スアの転移ドアを使えば一瞬でバトコンベへ出向けますので、現地へは明日朝一番に向かうことにしまして、今夜はおもてなし酒場でイエロ達の壮行会的な飲み会を開催することにしました。
本店横にあるおもてなし酒場は今日はコンビニおもてなし関係者でいっぱいです。
貸し切りにはしていないため、常連客の皆さんも多数つめかけておられますので、店の外にまで椅子やテーブルを並べて対応しています。
何しろイエロとセーテンは、毎晩ここで常連さん達と夜通し酒を飲んでいますからね。
もう、すっかり顔なじみなもんですから、
「おい、イエロちゃんにセーテンちゃん、明日はワシらも応援にいくからな! ぜってぇ優勝するんだぜ!」
「うむ、任されたでゴザル」
「軽く優勝してくるキ」
皆さんの激励に、イエロとセーテンは自信満々の笑顔で応えながら酒をついでもらっています。
壮行会開始早々から相当な量を飲まされている2人なんですけど、ケロッとした様子で皆さんと談笑しながらさらに酒を口に運んでいる次第です。
ちなみに、飲んでいるのはスアビールオンリーですね……
タクラ酒を手酌で飲みながら、僕は少し寂しく思っていた次第です、はい。
2人は元気に酒をあおりながら歓談し続けていますが……そんな2人の横で一緒に酒を飲んでいたグリアーナはといいますと、早々に酔い潰れてすでに机のうえに倒れ混んでいます。
「おいおい、イエロのお弟子さんってば、こんなに酒に弱くて明日は大丈夫か?」
そんなグリアーナの様子を見つめながらお客さん達が笑い声をあげておられるのですが……いや、別に酒の強さは戦いの強さとは無関係なんじゃ……思わず心の中で突っ込んだ僕でした。
そんな事を考えていると、僕のところに魔王ビナスさんが歩み寄ってこられました。
「店長さん、明日からの2日間はよろしくお願いいたしますわね」
「こちらこそよろしくお願いします」
僕と魔王ビナスさんは、明日からの2日間はコンビニおもてなし移動販売班ですからね、気合いを入れて頑張らないといけません。
「そういえば、大武闘大会なのですが、私の旦那様も参加することになりましたの」
「え? そうなの」
「はい、内縁の奥方様お2人と一緒に参加なさることになりました」
そう言って魔王ビナスさんはにこやかに笑っているんですけど……
た、確か魔王ビナスさんの内縁の旦那さんって、どこか別の世界の元勇者だったよね?
しかも、その内縁の奥さんって、これまた別の世界の魔王の娘さんと、すっごい魔法使いさんだったはずです。
……まぁ、魔法使いさんに関してはスアの方が圧倒的にすごいのは間違いないと思いますけど、そんな規格外の3人がチームを組んで出場するとなると大武闘大会がとんでもないことになるんじゃないんですかね?
「いえ、そのことなのですが……今回の大会に、旦那様が戦ってみたいお方が出場なさるそうなのですわ。その方と戦えたらそこでお終いになさるそうですの」
そう言いながら魔王ビナスさんは相変わらず笑っているんですけど、元勇者が戦いたい相手って……ど、どんな人なんだ、と、僕は苦笑しながら考えていたのですけど……いや、こればっかりは考えるだけ無駄ですね……まったく想像出来ません。
とまぁ、そんな話題があったりしながらも、壮行会は賑やかに行われた次第です。
◇◇
翌朝早くに起き出した僕は、みんなの朝ご飯を作りながら荷物の最終チェックを行っていました。
まぁ、いざとなればスアの転移魔法で取りに戻ることも出来るんですけど、あの大武闘大会ってすっごい人で賑わっていますからね、取りに戻る時間がとれるかどうか怪しい気がしないでもありませんので、念には念をいれている次第です。
ちなみに、今日は学校もお休みですので、パラナミオ達も一緒にバトコンベに出向きまして、スアとヤルメキスと一緒に屋台を手伝ってくれることになっています。
いつもですと、僕が朝食を作っている時間は寝ているパラナミオなのですが、今日はこの時間に起きて来まして、
「パパ! パラナミオ頑張りますよ!」
気合い満々な表情でそう言ってくれました。
そんなパラナミオの後方では、地下倉庫からシオンガンタが駆けつけて来てガッツポーズをしています。
そういえばシオンガンタってば、地下室に遊びにいくことが多いパラナミオと特に仲良しなんですよね。
今回は、同行しませんが、リョータとアルカちゃんが実演販売することになっているかき氷用の氷を大量に生成してくれる予定になっている次第です。
ちなみに、会場ではスアの魔法薬も販売することにしています。
傷薬やエナジードリンク的な飲み物などを屋台で販売する予定にしているのですが、ドーピング的な薬は持参しないように申し添えている次第です。
身体能力を飛躍的に高める薬剤は大会規定で使用禁止になっているんです。出展者への注意事項にもそういう薬の販売禁止が明記されていますしね。
スアは
「……うん、心得てる」
そう言うと、右手の親指をグッと突き立てました。
スアだと、身体能力を千倍に出来ちゃう薬とか作れちゃいそうですからね、ちょっと洒落にならない気が……
「……億倍まで可能、よ」
なんかスアが今、すごい事を口にしてドヤ顔をしているような気がしないでもないのですが……うん、きっと気のせいですよね……
その後、朝まで酒を飲んでいたため酒場から姿を現したイエロ・セーテン・グリアーナの3人も交えて朝食を食べ終えると、スアが生成した転移ドアをくぐって辺境都市バトコンベへと出向きました。
◇◇
街中はすごい数の人々が往来しています。
街道のあちこちに垂れ幕や旗が掲げられていまして、それらには
「ようこそバトコンベへ」
「バトコンベ大武闘大会」
などと記載されています。
「パパ! あれサーカスです!」
パラナミオが指さした先では、魔獣の玉乗りが行われています。
その前にピエロの姿をしている人が立っているのですが……確かあの人達ってナカンコンベの中央広場でもよく見かける気がします。確か、ロジクなんちゃらサーカスとか言ってた気が……
あの人達も、わざわざこのバトコンベまでやって来ていたのですね。
「ミサキコ、ちょっと待ってよ、シューリアが遅れてるわ」
「ケーテもシューリアも急いでよ! 受付が終わっちゃうじゃないの!」
「あ~、お、お待ちくださいませ~」
ビキニ・アーマーみたいな鎧を着けた女の子の後を、ダークエルフの女性と、かなり小柄な女の子が追いかけていてますけど、彼女達も大武闘大会に参加するようですね。
「タンク、さっさと行くわよ。参加する以上、絶対に決勝トーナメントに残るんだからね」
「ちょ、ちょっと待てっくださいよリッテリア、こういうことは参加することに意義がですね……」
「あ~、もう、相変わらずのんきなんだから」
「ふむ、なかなか賑やかな場所ですね。これは私達レイイチロウ個人タクシーの需要もありそうですね」
「うむ、旦那様よ、これはびじねすちゃんす、というヤツじゃな!」
「そうですねシルルク、少々頑張りましょうか」
「マイマスター、フォルクも頑張ります」
あちこちから賑やかな声が聞こえてきます。
僕達はそんな声を聞きながら大武闘大会の会場に向かって歩いていきました。