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ララコンベどったんばったん その5

「ど……どういうことなのかな、これは……」
 オザクザク商会の会長オザクザクさんは、必死に平静を装うとされています。
 ですが、

 顔は真っ青
 手はガタガタ
 足はガクガク
 背中は汗でびっしょり

 と、まぁ、見ているのが可愛そうなくらい動揺なさっているのがありありな状態です。
 その横では、その部下であるオザリーナが、オザクザクさん同様に

 顔は真っ青
 手はガタガタ
 足はガクガク
 背中は汗でびっしょり

 と、まぁ、こちらも判で押したように同じ状態になっています。
 そんな2人を交互に見回した僕……う~ん……この様子ですと、ポルテントチーネに完全に騙されていたってのがありありなんですけど……可愛そうですけど事実は事実としてお伝えしなければなりません。
「お2人が信用なさっていたウスシオーネですが、あの女は本名をポルテントチーネと言いましてですね、あちこちで色々な悪事を働いた結果、王都で牢屋に入れられていたのですが、そこから脱獄した指名手配犯なんですよ」
「「な、なんですってぇ!?」」
 僕の言葉に、オザクザクさんとオザリーナは同時にムンクの叫びよろしく絶叫していきました。

 で、

 そんな2人に僕はポルテントチーネがしでかしてきた悪事の数々を伝えていきました。
 その内容を1つ聞く度に、ただでさえ真っ青だった2人は青を通り越して黒ざめていきました。
 僕がざっと話し終えるころには、その黒さまですべて抜け落ちてしまい、まるでコーナーポスト前で真っ白な灰になっている某プロボクサーのようになって、2人してうなだれていた次第です、はい。

 2人のショックがあまりにも大きいものですから、その日は2人をララコンベ温泉郷に連れていって温泉宿で一泊してもらうことにしました。
 今後のことを話し合うにしましても今の状態では何もお話出来そうにありませんからね。
 なお、2人はポルテントチーネと共謀して何か犯罪行為を行っていた可能性があるとのことで、ポルテントチーネの取り調べが終わるまではゴルア達が監視することになっています。
 そんなわけで、僕とスアは、後をゴルア達に任せてガタコンベへと戻っていきました。
「とにもかくにも、スアのおかげで無事解決したね。いつもありがとう」
 僕がそう言うと、スアは嬉しそうに微笑みながら僕の腰のあたりに抱きついてきました。
 その後、僕はコンビニおもてなしの営業に戻り、スアは研究室で魔法薬の調合作業を行っていきました。

 と、まぁ……これでいつもの日常が戻って来た……と、この時の僕は思っていた次第です。

◇◇

 翌朝。
 ゴルアが渋い顔をしながらコンビニおもてなし4号店に設置されている転移ドアをくぐって、本店の僕の元を訪ねてきました。
 ……なんでしょう……嫌な予感しかしません。
「あの……店長殿……大変恐縮なのだが、ちょっとお付き合い願えないだろうか?」
「出来ればお断りしたい感じなんだけど……」
「そう言わずに……どうか助けると思って……」
「とりあえず、用件を教えてもらえるかい?」
「いや……それは向こうでということで……」
 そんなやりとりを延々21分36秒繰り返した後、根負けした僕はゴルアとともにララコンベ温泉郷へと移動していきました。

 で

 ゴルアに連れて行かれた温泉の部屋には、オザリーナが1人でへたり込んでいました。
 なんか、完全に呆けているというか、意識を失っている気が……
「あれ? オザクザクさんは?」
「……そ、それがですね……」
 渋い顔をしながら、ゴルアはようやく口を開きました。

 朝みんなが目を覚ますと、オザクザクさんがいなくなっていたそうです。
 ゴルアが慌てて調べたところ、窓から逃げ出した形跡があったとのことです。
 現在、辺境駐屯地の皆が捜索に出ているそうなのですが行方不明のままだそうです。
 
 で

 部屋の中には手紙と書類が残されていたそうです。
 手紙は、オザクザクさんの置き手紙だったそうなのですが、その中には、
『オザクザク商会の会長職をオザリーナに譲ります。私はただのおじさんに戻ります』
 と、まぁ、どこかのアイドルが引退したときに用いたような内容が書かれていました。
 で、書類の方はですね、代表権の変更手続き書類だったそうです。
 どうやらオザクザクさんは王都での商売が出来なくなった時点で、いつでもすべてをオザリーナに押しつけてとんずら出来るように準備を整えていたようですね。
 たまたまそのタイミングで温泉話が舞い込んできたため、もしこれが成功してオザクザク商会が息を吹き返すことが出来たらそのまま会長にとどまっておき、失敗したなら予定どおり全ての責任をオザリーナに押しつけて逃げてしまおうと考えていたのでしょう。
 その結果、昨日この温泉話が大失敗に終わることが確定したため、作戦を遂行した……と、まぁそういうわけで……

 僕達の目の前に知るオザリーナに、大赤字を抱えているであろう完全な沈没船と化したオザクザク商会が押しつけられたわけです。
 その事実を受け入れることが出来なくて、今のオザリーナは茫然自失状態なんでしょうね……

 現状を把握した僕がゴルアと顔を見合わせていると、おもむろにオザリーナが口を開きました。
「……あの温泉宿を開発するためにですね……オザクザク商会に残っていたお金をかき集めたのです~……でもですね~……それでも足りなかった分はですね~……結構暴利な怪しいところからお借りしているのですよ~……私、その連帯保証人になっているものですから~……あは、あはは……」
 そう言うと、オザリーナは焦点の定まっていない目で虚空を見つめながら乾いた笑いを浮かべています。
「あ~……あの、怖いジルルさんがやってくるんですね~……」
 オザリーナがボソッと口にしたその言葉を聞いた僕は思わず目を丸くしました。
「え? ジルル?」
「え? あ、はい……ジルルさんです~……」
「そのジルルって……」
 僕がそう言いかけた、まさにその時のことです。
 宿の部屋の戸が蹴破られて、そこから1人の女が駆け込んできました。
「ここにいたねオザリーナぁ。オザクザクから事情は聞いてるんだよ、新会長就任おめでとう、さ、今週の利息を支払ってもらおうか!」
「ひ、ひぃぃ~ごめんなさいごめんなさい~」
 部屋に駆け込んで来たその女、ジルルは目の前で土下座を繰り返し始めたオザリーナの胸ぐらを掴んで立ち上がらせようとしています。
 
 ……間違いありません。

 この女……闇の嬌声の下部組織「闇の嬌声の足の爪」の女首領ジルルに間違いありません。
 4号店の店員ツメバに難癖つけて大金をむしり取ろうとしたり、魔導船で一儲けを企んでいたあのジルルに間違いありません。
 ……確かジルルは王都で掴まっていたはずですが……
「はぁ? なんだい、あんな牢屋ぐらいこのジルル様にかかれば朝飯前で逃げ出せる……って、お前なんでそのことを……」
 そこで僕の顔を始めて見たジルルは、一瞬にしてその顔を真っ青にしていきました。
「な……なんでお前がここにいるんだよ……」
「いやぁ……いるのは僕だけじゃないんだよ」
 僕はそう言うと、ゴルアを指さしました。
 ゴルアは、おもむろに右手を挙げると
「総員! 脱獄犯ジルルを捕縛せよ!」
 そう声をあげました。
 すると、部屋の隅に控えていた辺境駐屯地の皆が一斉にジルルに飛びかかっていきました。

 どうやらジルルはオザリーナしか目に入っていなかったらしく、僕やゴルア、辺境駐屯地の皆の事は目に入っていなかったようです。
 それだけ、目先の金を手に入れることに躍起になっていたということなんでしょう。
 
 こうして、捕縛されたジルルは荒縄でグルグル巻きにされた状態で、転移で駆けつけてくれたスアが作成した転移ドアをくぐって王都の衛兵局へと移送されていきました。

 一応、ジルルとオザクザクが交わした借金の契約書の写しももらっているのですが、
「この契約書が有効かどうか確認しといた方がいいかな……」
 と、考えていると、
「魔女信用金庫の単眼族ポリロナと」
「同じく巨人族のマリライア」
「「お金絡みのご相談をかぎつけて、呼ばれる前に即参上!」」
 と、ちょうど呼ぼうと思っていた2人がタイミング良く転移魔法で登場してくれました。
 こういうときのこの2人ってホントに役に立ちます、はい。

 で、

 早速、ジルルの契約書を確認してもらったところ。
「あ~、ひどい契約書ですね~」
「利息が完全に法定利息を超えてますね~」
「ここもダメですね~」
「これもダメですね~」
 と、散々ダメだしをした後、
「結論からいいますと、この契約書は法律を遵守しておりませんので完全に無効ですね」
「この契約に基づいて借りた金銭は償還する必要はありませんですね」
 そう言いました。
 その言葉を聞いたオザリーナは
「ほ、ほんとですか~……」
 心の底から安堵した笑顔を浮かべながらその場に倒れこんでいきました。

 と、まぁ、これでとりあえずオザリーナが背負わされた借金問題は解決出来たわけですけど、あの温泉郷建設地の問題はまだ残ったままなんですよね……

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