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いけにえ1

 王城に入るのは生まれて初めてだ。

 聖女と貴族たちからも呼ばれ始めたリゼッタも今は王城で暮らしていると知らされている。
 聖女様と私。なんの違いがあったのだろうか。

 もっと勉強をしておけばよかったのだろうか。それとももっと神に毎日ちゃんと祈っておけばよかったのだろうか。



 要塞として作られた王城は小高い山の様な地形に分厚い塀があり、外観はとても無骨だ。
 塀の中に入るとそこはまるで城というよりは一つの街の様にも思えた。

 要塞としての機能を重視しており、馬も城の中にいる位らしい。有事の際、この城だけですべてが完結するようになっていると聞く。

 石造りの建物も、塀も重厚感があって威圧的にすら思える。
 特に今の私の状況ではこの石が目の前いっぱいに見える状況は圧迫感以上に、まるで城からも突き放されているみたいな気さえしてしまう。


「こちらだ」

 今日は、父と兄の二人が付き添ってくださった。
 二人とも険しい表情のまま私と連れ立って歩いている。

 案内役をしているのはこの国でも一、二を誇る貴族の当主様だ。
 それがこれから起こることを想起している。

 陛下以外に、その貴族も必要な呼び出し内容は一つしか思い当たらなかった。

 礼儀のために新調したドレスは多分もう着ることは無いのかもしれない。

 けれど、父と兄の顔に泥を塗る様な真似はできない。
 いつもの様に微笑みを浮かべて、礼儀正しく。それ以外今の私にできることは何も無い。


 案内されたのは石造りのドーム型の広い部屋で、そこが謁見の間であることはすぐに分かった。
 そこはまるで教会の様だと思った。

 古い時代に建てられた教会に行ったことがあるけれどそこはこの部屋と同じ様な建築様式だった。
 この場所が古くから使われていることが分かる。

 この国では何度も戦がおきたという。そのたびに侵略者から王家は民を守ってきた。
 その何度もを見続けた城の部屋の一室に私達は通された。

 そこにはこの国の重鎮がそろっていた。

 私の様な侯爵家の令嬢であっても滅多に見る事の出来ない人々ばかりがそろっている。
 覚悟を決めなければと思った。
 他に累が及ばないようにせねばならない。私だけがきちんと預言を受け止めねばならない。

 私達が部屋に入ってすぐに陛下がこの部屋に入ってきた。
 伴っている魔法使いは随分と高齢に見えた。

 儀式の補佐をしていた魔法使いは皆もっと若かった。
 特に魔法の力が強い人間は見た目の年齢と実年齢が乖離しているという。

 年老いて見える魔法使いの実際の年齢は分からない。

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