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ティーケー海岸のお祭 最終日

 ガタコンベにありますコンビニおもてなし本店では、今日も新人研修が行われています。
 初日から研修を受け始めた3人はそれぞれ

 アレーナさんは2号店
 クヨヨンさんは4号店
 カアラさんは5号店
 
 各支店での勤務を開始してもらっています。
 全員まだバイト扱いですが、今のところ問題なく業務をこなせていると各支店の店長から連絡を受けています。

 本店の研修生は3人いなくなったことで6人になっていますが、全員問題なく研修を……

「あひゃあ!?」
「ちょっとアレーナ!?な、なんでまたボクのスカートをぉ!?」
「……わ、私のスカートも返して……」

 ……アレーナさんは相変わらずすっころび癖がひどいですが、これでも3回転ぶところを2回に減らせているような気がしないでもありませんので、多少は成長しているような気がしないでもないかな……そうでもないかな……う~ん……

◇◇

 そんな中、ティーケー海岸で開催されていた夏祭りが今日が最終日と相成りました。
 お店の定休日でもありますので、今日はコンビニおもてなしのうち、年中無休24時間営業している3号店以外の全本支店の全店員ならびに関連会社全員でティーケー海岸へ、出店の手伝いをかねてお祭を満喫しにいくことにしました。
 もちろん、研修を受けているみんなも一緒です。

「あの……店長さん」
 僕に声をかけてきたのは研修中のリンさんです。
「どうかしたのかい、リンさん」
「あの……ほ、ホントにいいのですぁ……家族まで一緒させていただいて……しかも、旅費やお小遣いまで支給してもぁえぅなんて……」
 舌足らずな言葉で僕に申し訳なさそうに言うリンさん。
 その後方には、彼女の家族が揃っています。病弱なリンさんの母親も一緒です。
 おっと、この表現は正確ではありませんね。
 かつて病弱だったリンさんの母親……と、言うべきでしょう。
 と、いいますのも、リンさんのお母さんは、名前をランさんと言うのですが、リンさんが働き始めてすぐにスアに具合を見てもらったんです。
 すると、スアはすぐに治癒魔法を駆使しましてその病気を治してくれたんです。
 ただ、完全に治すためには無理しすぎることなく体を休めながら魔法薬を定期的に服用していく必要があるそうなんです。そのため、まだバリバリ働くことは出来ませんので、今は家でリンさんの弟や妹の世話をしている次第です。とはいえ、以前は寝たきりでみんなの世話どころじゃなかったのですから、相当な進歩といえます。
 ちなみに、治療費はリンさんが正社員になってからゆっくり返してもらうことにしています。
 少し可愛そうですけど、こういうところはきっちりしておかないと、後々問題が起きかねませんからね。

 おもてなし診療所は、転院の診察費をタダにしてその分を患者の治療代に上乗せしているなんて噂をたてられでもしたらちょっと困りますから。

◇◇

「あ、パパです!」
 転移ドアをくぐった僕をパラナミオが真っ先に見つけてくれました。
 駆け寄ってきた僕に抱きつくパラナミオ。
 家でも見ていますが、ティーケー海岸で合計2週間出店のお手伝いをしたせいで日焼けして真っ黒です。
 アルトとムツキも……と、思ったのですが、この2人は体質的に日焼けしにくいみたいでして、あまり日焼けしていないんですよね。

 で、今日はかき氷の実演販売をリョータとアルカちゃんがすることになりました。
「アルカちゃん、一緒に頑張りましょう」
「りょ、りょ、りょ、リョータ様との共同作業アルか!? ふ、ふ、ふ、ふつつか者アルけど、よろしくアル」
 そう言うと、アルカちゃんがその場で土下座をしていきました……っていうか、ヤルメキスの元で働くとみんな土下座体質になっちゃうんですかねぇ?
 ヤルメキススイーツをヤルメキスとケロリンが販売して、そして串焼きは僕が……と思ったのですが、
「リョウイチお兄様はちょっと働きすぎなのですわ」
 と、5号店店長のシャルンエッセンス。
「たまにはパーっと遊んでくる! みたいな!」
 と、舌出し横ピースしている4号店店長のクローコさん。
「あとは、アタシ達にまかせてさ」
 と、2号店店長のシルメール。
 と、まぁ、各支店の店長達に追い出されるようにして、僕は海岸に向かっていくことになりました。

 職業病といいますか「ここはまかせて」と、言われましてもその場にいるわけですのでどうしても出店のことが気になってしまうのですが、せっかくみんなが気を利かせてくれたわけですし、ここはありがたく家族サービスをさせてもらおうと思い直しました。

◇◇

 僕達一家を先頭に、子供達を全員連れて来ているクローコさんや、フク集落の子供達を全員連れて来ているファラさんのように、大人数を率いている方々も少なくないコンビニおもてなしグループは、かなりの集団で移動しています。
 海岸には、お祭最終日ということもありましてかなりの海水浴客の皆さんがひしめき合っているものですから、さすがにみんなで一緒にくつろげそうな場所はないよなぁ……と、思っていたのですが、そんな僕の手をスアが引っ張りました。その手には簡易小屋の種が握られています。
「それ、砂浜でも使えるんだ」
「……大丈夫、よ」
 一応、祭りの責任者のアルリズドグさんに、砂浜に簡易小屋を建てていいかどうか確認したところ、
「あぁ、ちょうどいい日陰も出来るし、みんなも喜ぶだろうから問題ないぜ」
 そう言ってくださいました。

 そんなわけで、僕達は簡易小屋の種を植えることが出来る場所を探していったのですが……砂浜はどこも布やゴザが敷かれていて適当な場所がありません。
「……まてよ、それなら……」
 そこで僕は、海の中に簡易小屋を建てることを思いつきました。
「……わかった、やってくる」
 スアはそう言うと、海に向かっててくてくと歩き始めました。
 右手を海にかざしながら進んで行くスア。
 すると、海が左右に割れていきまして、出現した本来は海底である砂浜の上をスアは進んでいきます。
 これってあれですよね……モーゼの十戒みたいな感じになっちゃってますね……

 しばらく進んでいったスアは、適当な場所に簡易小屋の種を植えました。
 スアが詠唱すると、すさまじい勢いで簡易小屋の木が空に向かって伸びていきます。
 泳げない人もいますので、海が割れた状態の中をみんなで進んで行きまして、幹にある出入り口から簡易小屋の中へと入っていきました。
 今回スアが使用した簡易小屋の種は特別製だそうでして、実の部屋が5つも出来ています。
 しかも、その一個一個がとても広く、楽に10人は入ることで出来ます。
 さらに、窓がかなり大きくなっていますので、そこから海に飛び込むことも可能です。
 各実の部屋は枝の中の廊下でつながってますので行き来することも可能です。
「よっしゃ、泳ぐぞ子供達!」
 ガラス工房のペリクドさんが威勢良く声をあげると、窓から海に飛び込んでいきました。
 高さは2mくらいですので飛び込むのにはいい高さです。
 その後に続いて、ペリクドさんの子供達が次々に飛び込んでいきます。
 子だくさんのペリクドさんも、今日は久々に家族サービスなわけです、はい。
 ちなみに、奥さんは出産が近いとのことで不参加です……ペリクドさんってば、またご家族が増えるんですねぇ……
 
 魔王ビナスさんも内縁の旦那さんと内縁の他の奥さん達と一緒に参加なさっているのですが、
「はい旦那様、あ~ん」
「ちょっとビナス、今度は私の番でしょう?」
「2人ともずるい~なんでミラッパのアイスはないっぱ!?」
「おいおいミラッパ、自分で全部食べておいてそれはないんじゃないか?」
「むぅ! ダーリンひどいっぱ」
 なんか、内縁の旦那さんを中心にして、奥さん達がイチャイチャしまくってる感じですね……子供達も多いのでちょっと自重してほしい気がしないでもないのですが……

 そんなことを考えていると
「パパ、一緒に泳ぎましょう!」
 水着姿のパラナミオが僕の腕をひっぱりました。
 アルトとムツキもその後ろからやってきて僕の腕をひっぱります。
「わかったわかった、じゃあ行こうか」
 スアに手を振って見送られながら、僕は軽くストレッチをしてから
「そ~れ!」
 窓辺から一気にジャンプしました。
「きゃ~」
「すごいですわ~」
「にゃしぃ!」
 パラナミオ・アルト・ムツキも僕と一緒にジャンプしています。
 そのまま水しぶきをあげながら海の中に落下していった僕達。
 海から浮かび上がって、顔を出したパラナミオが
「パパ、楽しいですね」
 そう言いながら僕の腕に抱きついてきました。
 その後方から、アルトとムツキも泳いで寄ってきています。
 僕は、そんな子供達を見回しながら、今日は目一杯楽しませてあげないとな、と思った次第です。

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