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34 みんなの決意

皆、あまりのことに声を出すことはおろか、瞬きすら出来なかった。息をするのも忘れていたかもしれない。
だが、無情にも主神様の話は続く

〖向こうの世界での愛し子は…生まれてすぐ父親を失い、母親に育てられた。だが、母親は自分が辛いのは愛し子のせいだと虐待を始めた。心配し、やっとの思いで探し出した孫の様子を見に来た亡くなった父親の母、愛し子の記憶にあるおばあちゃんだね。彼女に発見されるまで虐待は続いていた。愛し子が二歳になる少し前位だ。彼女は愛し子を引き取り育ててくれた。愛し子にとって幸せだったのはこの時だね。彼女は愛し子をとても愛し大切に育ててくれた。愛し子も彼女を愛した。だが、それも長くは続かなかった。愛し子が五歳になったころヤツが痺れを切らしたんだ〗
神様はそこで辛そうに言葉を切った…

『主神様、ヤツは何を、何をしたんですか』
クゥがやっとの思いで声を絞り出した。幸せだったサーヤたちに一体何をしたんだ⋯っ

主神様は、しばし目を閉じ、動くことはなかった。そして、詰めていた息を一度ふーっと吐き出し、再び話し出した。
〖…男と逃げていた母親に、祖母と愛し子を襲わせたんだ 〗

『そんな…』
フゥが耐えきれずに地面に崩折れた。
そんなクゥをフゥが支える。
『フゥ、しっかりしろ。辛くてもおれたちは聞かなきゃいけないんだ。サーヤのためにも』
『クゥ…うん。ごめん』

そんなフゥとクゥの様子を見て、主神様は語り続ける。その内容は残酷なものだった
〖母親は今度こそ捕まったが、祖母は愛し子を守って亡くなってしまった〗

『『そんな⋯』』
フゥとクゥはまだ寝ているサーヤを見て涙を流し
『なんということだ…』
主様は目を閉じ涙をこらえる

〖愛し子は孤児院に入れられた。目の前で祖母を失った愛し子の心は壊れてしまった。笑いもしなければ怒りもしない。喋りもしない。そんな子は今度はいじめの対象になってしまった。ある日ついに大怪我を負わされて寝たきりになってしまった。それが八歳。そして誰にもみとられることも無く二年後息を引き取った。十歳だ〗

皆、堪えきれず涙を流して聞いていた。泉のほとり、嗚咽だけが聞こえる。

〖すべてヤツが仕組んだことだった。ずっと、ずっと笑って見ていたんだ。傷つき、壊れていく愛し子をっ〗
主神様がぎゅっと握りしめ続けた手のひらは、自身の爪で傷つき血が流れ出していた。まるで代わりに泣いているように…

『主神様、ヤツは、ヤツは今…』
森の主様が怒りに震えてたずねる

〖すまない。取り逃した。私が見つけた時、ヤツがまた愛し子の魂を弄ぼうとしていた所だったんだ。私はそれを必死に止めて奪い返した。だがそれが精一杯でヤツを逃がしてしまった〗

悔しさを滲ませて詫びる神様。壊れかけた魂を守りながらでは思うように力を出せなかったそうだ…

〖ただ、ヤツも無傷では無い。またしつこく愛し子を追ってくるまで、多少は時間稼ぎができたと思っている〗

『待ってくださいっ!それは、ヤツは必ず追ってくるとお考えなのですか?』
クゥが否定して欲しいと願いながらたずねるが…

〖おそらく。ヤツは執念深い。あれは既に闇に落ちている。もはや神ではない。気に入ったおもちゃを自分で完全に壊すまで諦めないだろう〗
願いは虚しく、否定の言葉は聞けなかった。

『そんな…』
フゥの声は絶望に染まっていた…

〖私は急いで傷ついた魂和抱きしめて神界に戻り、取り返した愛し子の魂を娘と共に修復した。辛い記憶を消し、楽しかった時だけの記憶を残すように、記憶を操作していた〗

記憶を操作?
『あっ!だからサーヤは自分のことはもやもやって』
『そうか、自分の名前すら覚えていなかったのは…』
クゥとフゥがサーヤの言葉を思い出す

〖そう。酷い母親に付けられた名より、大好きな祖母に付けられた呼び名の方がいいと思ってね〗
神様の表情が少し柔らかくなった。

『ではサーヤの姿が変わったのは…』
森の主様がたずねると

〖容姿は本来の姿に戻しただけなんだ。けれど、魂の傷みが想像以上に酷くてね、二歳になるかならないか…祖母に引き取られた頃の姿になってしまったんだ。舌っ足らずな喋り方でも多少言葉が多いのは祖母と暮らしていた間の記憶があるからさ〗

『主神様、ヤツが来るのはいつ頃かは…』
続けてたずねるが、返ってきた答えは…

首を振り主神様が謝る。
〖すまない。正直分からないんだ。だが、なんとかそれまでにサーヤの心と体を育ててほしい。自分は人に必要にされているのだと、愛されているのだと分かるように。そしてヤツと戦えるだけの体と、知識と力を育ててあげて欲しい〗
神様の必死な願いがみんなに伝わる。

『神様、お約束致します』
森の主様の言葉を皮切りにクゥたちが続く
『サーヤはおれたちが守ります』
『たくさん愛してあげます』
ぴゅい『まかせて!』
きゅい『まもるよ!』
森のみんなも次々に『自分も』と声を上げる。
みんな、主神様の願いに応えてくれた。

〖ふふっ。さすが私たちが見込んだだけのことはある。大丈夫。既に愛は感じているよ。サーヤ、いい名だね。ありがとう。サーヤを救ってくれて。名前をつけてくれて〗
神様の顔にもようやく笑が…そして目には涙が浮かんでいる。

『そんな、もったいないお言葉っ』
『そうです。それに、今の私たちはあまりに弱い。このままではサーヤを守れません』
フゥとクゥがうまく言葉にならない思いを何とか伝わるようにと訴える。

『だから強くなりたい。ならなきゃいけない』
『でも、どうしたらいいか分からないんです』
『強くなるために力を貸してくれる人、鍛えてくれる人はいませんか』
『お願いします!私たちを鍛えて下さい|』
フゥとクゥは主神様に頭を下げると
『私もお願いします』
ぴゅいきゅい『『おねがいちます』』
森の主様をはじめ、みんなが僕も私もと続いて頭を下げる。

主神様は周りを見回す。
〖どうやら皆同じ気持ちになってくれたようだね。この森さえも。木々から土から水からさえ強い意志を感じる 〗

そう言う主神様に皆、真剣な目を向けていた。強い目を。

〖みんなありがとう。我々神も協力する。可能な限りの加護を与えよう。そして我々が見極めた力になる信頼出来る者をこの地に送ろう。その時はよろしく頼むよ〗

『『『『はい!』』』』

みんなの思いはひとつになった。


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