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がんばる研修生の皆様 その2

 今日は商店街組合のアレアが訪ねてきています。
 蟻人のアレアは身長はパラナミオと同じくらいですがれっきとした成人女性です。
 ちなみに商店街組合で働いている蟻人さん達ってみんなよく似ているのでみんなよく間違えたりしているんですよね。
 僕は客商売という仕事柄、間違えたことが一度もありませんけど。

 で、そのアレアの話によりますと、コンビニおもてなしの求人に対する応募はそれなりにあるそうなんですが、
「中にですですね、問題のある応募も少なくないのですです」
 そう言って見せてくれた履歴書には
「え~っと何々……こっちがリンさんで、こっちがロキくん……あぁ、2人とも10才かぁ……」
 そう書かれていたんです。
 確かに、コンビニおもてなしでは先日この2人と同じくらいの年齢のアルカちゃんをヤルメキススイーツ担当として雇ってはいますけど、アルカちゃんの場合は社員として雇ったというよりも家族の一員としてお店を手伝ってもらっているって感じですからね。
「商店街組合としましても未成年を紹介するわけにはいかないですですので……」
 アレアもそう言いました。

 この世界の成人は15才なんだそうです。
 その年齢になれば一人前として結婚も出来るようになるんだとか。
 で、商店街組合としては、この年齢をクリアした人しか紹介は出来ないということなんです。

 ……でも、変ですね
 そんな紹介出来ない求人票をなんでアレアはわざわざ僕のところに持ってきたのでしょう?
「あぁ、それはですですね、あくまでも『商店街組合としては紹介出来ない』ということですです」
「……じゃあ何かい? コンビニおもてなしとして直接連絡を取るのなら問題ないってことなの?」
「え~、そこに関してはあえてノーコメントとさせていただきたいですです」
 アレアは、少し困ったような表情をその顔に浮かべながら僕を見つめています。
 その様子を見るにつけ、どうもこの2人には何か事情があるみたいですね。

 そのアレアの様子が気になった僕は、この2人の元を訪ねてみることにしました。

 リンさんという女の子はガタコンベの都市外れにある都市営住宅に住んでいました。

 この都市営住宅って、実は僕が、実質的にこの都市の運営を行っている商店街組合に街長代行として提案して作ってもらった施設なんです。
 ガタコンベの中には生活に困っている方々もおられるわけです。住む場所がない方々もおられます。
 そういう方々に安い家賃で住居をお貸しして住む場所を提供しつつ、自立のお手伝いをするための施設なわけです。
 僕が元いた世界にもあった公営住宅をモデルにして考えた仕組みなんですけど、僕が提案者でもありますのでコンビニおもてなしとしてもこの建物の建設費用を補助させてもらっている次第です。建設は当然ルア工房が受け持ってくれています。
 
 で、その都市営住宅の1室に猫人のリンさんは住んでいたのですが、一家7人で1室に暮らしていました。
 父親は冒険者をしていたそうなんですけど、魔獣に襲われて……
 病弱で働けない母親に代わり、リンさんが長女としてあれこれ仕事をしているそうなのですが、年齢的な問題のせいでなかなかいい仕事が見つかっていないんだとか……
「あの……がんばぅので……雇っていただきたぃです」
 少々舌足らずな口調で、リンさんは僕に何度も頭を下げてきました。

 あぁ、なるほどなぁ……この事情を知っていたからアレアは僕にわざわざあの求人票を見せに来たのでしょう……確かに、未成年を雇うとなると何かと面倒が起きかねないのですが……
「とりあえず、明日から研修を受けに来てくれるかい? あと、これは研修のための準備金だから、先に渡しておくね」
 笑顔でそう言うと、僕は硬貨が詰まった布袋をリンさんに渡しました。
 まぁ……準備金というのは方便です。このお金も本当は僕のポケットマネーです。
 ただ、見るからに生活が大変そうですし、リンさんの他の兄妹達はみんな5才以下みたいですしね、何かと入り用だろうと思ったわけです。
 準備金と言ったものですから、リンさんもそのお金を素直に受け取ってくれました。
「わ、わたし、がんばりまぅ……すごくがんばりまぅ」
 リンさんは嬉しそうに笑みを浮かべながら何度も頭を下げてくれました。
 その後方からは、リンさんの兄妹達がリンさん同様、僕に向かって頭を下げてくれていました。

◇◇

 リンさんとは対象的に、ロキくんは普通の生活を送っていました。
 ロキくんは、人族の男の子なのですが、宿屋で生活をしていました。両親はいないそうです。
 算術が得意だそうでして、今までも商店街組合の斡旋で短期の経理仕事をあちこちで行って生計をたてていたそうです。未成年なので短期の仕事しか斡旋してもらえなかったのでしょうね。
「でもさ~、そろそろ定職にもついておいたほうがさ~、いいんじゃないかなぁと思ったんだ~」
 そう言うと、ロキくんは人なつっこそうな笑顔を浮かべていました。
 ……で、その首にはなぜか蛇がまきついているんですよね。
「その蛇は、ペットなのかい?」
「うん、そんなもんかな~」
「あ~、でも、仕事の時にはその蛇はおいてきてくれるかい。ウチのお店は客商売だからさ」
「うん、それは大丈夫~、今までの職場でもだいたいそうだったから~」
 ロキくんはそう言って笑いました。
 で、簡単な計算問題を解いてもらったんですけど……確かにその算術能力はかなりのものでした。
 結構複雑な計算でも暗算でスラスラ正解しちゃうんですよね。
 アレア的には、この算術能力を高く評価して僕に推薦してくれたってことなんでしょう。

 その実力を確認した僕はロキくんにも明日から研修を受けに来てくれるように伝えました。

◇◇

 翌日。
 コンビニおもてなし本店にはリンさんとロキくんに加えてもう1人男性の姿がありました。
 この方は4号店のあるララコンベ商店街組合の紹介でやってきたタルマンさんと言われます。
 なんでも樽族という種族の亜人の方だそうでして、体が樽のような姿になっている方なんですよね。
「今日は研修よろしくで、たーる」
 僕に向かってそう挨拶をしてくれたタルマンさんは、リンさんとロキくんにも
「よろしくで、たーる。よろしくで、たーる」
 と挨拶しながら、ガッチリ握手を交わしていました。
 
 早速この3人には、先日から研修を受けてもらっているアーリア・クヨヨン・カアラの3人と一緒に魔王ビナスさんの研修を受けてもらうことにしました。
「では皆様、研修がんばりましょうね」
「「「はい」」」
 魔王ビナスさんの言葉に、みんな元気に挨拶をしていました。

 先に研修を受けて始めてるアーリア・クヨヨン・カアラの3人はそろそろ各店に配置して実地研修を兼ねて働いてもらってみてもいいかな、と思えるレベルになっています。
 この調子で、リンさん・ロキくん・タルマンさんの3人も早く戦力になってくれるといいな、と思った次第です。

◇◇

 営業が始まって数日経ったコンビニおもてなしテトテ集落出張所ですが、結構好調な様子です。
 やはり食べ物類が大人気でして、お昼までに結構な数売れているそうです。
 ただ、夕方になるとこれらの商品があまり売れなくなるんだとか……
 本支店であれば、お昼前に一度目のピークがやってきまして、閉店前の1時間に二度目のピークがやってくるんです。
 これは、家に帰って食べる分を買って帰られる方々が利用なさるわけです。
 
 ですが、テトテ集落出張所では、この時間帯はほとんど売れていないわけです。

 リンボアさんに相談してみたのですが、
「この集落のみんなは、夜はみんな家でご飯を食べるのが当たり前になっておりますめぇ」
 そう言われたんですよね。
 要は、晩ご飯を買って食べる習慣がないってことなんでしょう。
 特に、最近は魔法使いの皆様をお嫁さんにもらわれて、新妻の手料理を満喫なさっておられるのでしょうし……
 ちなみに、お昼は爆発的に売れているのは
「お昼ご飯くらいは楽をさせてあげたいと思っているんだと思いますめぇ」
 とのことでした。

 そんなわけで、テトテ集落出張所では夕方の搬入を少なめにする方向で調整することにしました。
 やはり、やってみないとわからないことってありますね。
 僕は、搬入計画のペーパーを修正しながら、そんな事を考えていました。

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