20話
花の種や鉢植えを買い終えて、隣の広場で昼食にした。
その頃から、ニコの様子がおかしい。
いつもなら、手をつないでニコニコしながら歩いてくるのだが、少し俯きながら、トボトボと歩いている。
「…ニコ、どうかしたの?」
「!…ううん…」
バッと顔を上げて否定してくる。その表情は、確かにマイナスな表情はしていなかった。
だが、それ以上は何も言わずに、その後は俯くことはないけれど、歩みは遅いままだった。
少しして、ハロルド達の長兄、エドワルドさんが住む家にたどり着いた。
外を掃き掃除していたソフィアーナさんが、こちらにきがつく。
「おかえりなさい、2人とも」
「只今戻りました」
「…あら?」
ソフィアーナさんは、すぐに二コの様子が行きと違うことに気が付いたようだ。
「どうかされたんです?」
「それが…」
軽く訳を話した。買い物中は目をキラキラさせていた事や、種から育てたいと希望を言ってくれたこと、そして、お昼にあったことを。
「そうだったの…。何か、気になることでもあったのかしら」
「気になること…」
いわれてみれば確かに、時々首をかしげる様子もあった。
だが、それが何なのかは未だわからない状態だ。
何か、まだ育てたい花でもあったのだろうか。
今ここで考えても埒が明かないし、長居するわけにもいかないので、お礼を言って帰ることにした。
「では、これで。また用事ある時に通らせていただきますね」
「ええ、いつでも構わないわよ。ニコちゃん、さようなら」
「…サヨナラ」
小さく手を振り終えたニコを連れて、扉をくぐる。
南側の家では丁度、リックが前を通りかかった。
「あ、お帰りなさい。買えました?」
「目的のものはね」
「…お昼は済みました?」
「え?うん。お弁当持ってきたから、向こうで」
「そうでしたか。よかったら、お茶していきません?」
突然のリックの誘いに驚くが、時間が合えばよくお邪魔しているので変ではない。
午後の営業を開始するのにもまだ時間あるようだ。
「ニコちゃんは、飲みたいのある?」
「…リンゴ」
「リンゴジュースね。ココロさんは紅茶です?」
「うん、お願いします」
テーブルに案内されて、ニコを座らせる。
リックはその間に飲み物を用意しに行った。
そのリックの背中を、ニコがジーッと見ていて、しかしすぐにコテンと首を傾げた。
「??」
その様子を見ながら、やはり何か気になることがあるのだろうと考えた。
それから少しして、リックが飲み物を持って戻ってきた。
「で、どうかしたんですか?」
「あーやっぱりわかるよね」
初対面のソフィアーナさんに気付かれたのだから、何度も顔を合わせているリックが気付くのも当然だろう。
やはり、ニコの様子がいつもと違うことについて考えていたのは分かってしまったようだ。
リックにも、お昼にあったことを簡単に説明する。
話し終えたころに、奥からドアが開く音が聞こえてきた。
「あ、兄さん」
やってきたのはハロルドだった。軽く手を挙げて、テーブルの反対側に座る。
「ん?何かあった?」
当然鋭いハロルドは、その場の雰囲気で様子が違うことに気がつく。
ハロルドなら何かわかるかもしれないと思い、一連を話す。
ニコの能力が花に関する事、道具や苗を買いに行っていた事。そしてニコの様子も。
「…ん?」
大方話し終えたところで、ニコがジーッとハロルドを見ていることに気がついた。
先ほどのリックに対する行動と同じ。しかし、首を傾げることはせず、持っていたコップをテーブルに置いた。
そして
「……パパ?」
衝撃発言。
この場にいる、ニコ以外の三人が、その発言の意味を呑みこむのに数秒を要した。