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 それはグレイスにはっきり伝えてくれた。
 フレンの気持ちを。
 グレイスに抱いてくれる気持ちを。
 あのときの抱擁とくちづけ。
 グレイスをただ宥めるためのものではなかったのだ。
 痛いくらいにそれが迫ってきて、グレイスの目から今度こそぽろぽろと涙を零させた。
 ぎゅっとフレンの胸元を握って抱きつく。服の感触はまったく違ったけれど、そのあたたかさに違いなどない。間違いなく、グレイスの愛しているひとだ。
「お嬢様」
 フレンはしばらくグレイスを抱いていてくれたが、やがてグレイスの肩に手をかけた。そっと自分から剥がす。
 けれどそれは拒絶ではない。グレイスの顔を覗き込んでくれるためだ。
 要されているそのことがわかり、グレイスも顔をあげた。
 視線の先、映ったのは穏やかで優しい翠色。グレイスの大好きな色。
 その瞳は、でも今までとは少し違った。ほろりと崩れそうなほど、やわらかい。
 きっとそれに込められているのは、愛しさ。
「貴女を想っています。貴女のお傍に仕えるようになってから、ずっと」
 静かに言われたことは、グレイスがずっと欲しかった言葉だ。
 ずっと欲しいと思って、けれど言ってもらえることなどないのだと思っていた言葉。
 これは夢ではないかとグレイスに思わせてしまうほど、幸せな言葉だった。

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