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「レイシスがフレンを懲戒解雇して、フレンはこの屋敷から放り出される形になったわ。幼い頃にこの屋敷に来て、ずっと暮らしていたフレンが行く場所などあるはずないでしょう」
「そう、……なりますね」
 フレンから居場所を奪ってしまったのは自分であるので、胸が痛んだ。グレイスの声は気落ちする。それを慰めるように、レイアはちょっと微笑んでくれた。
「それで、フレンはフレンのお母様の元に身を寄せていたようなのよ」
 フレンのお母様。お妾……といったか。正式な奥様ではない女性。
 でもおそらく、いくらかの身分がある女性なのだろう。今もラッシュハルト家と関連があるかはわからないけれど。それでもそれなりの屋敷かなにかに住んでいるはずだ。
 それをきっとレイアは調べ、突き止めてくれたのだ。
「勿論、一時的なもののつもりだったと思うけれど。グレイスが気にかからないはずがなかったでしょうし」
 その意味はわかる。
 フレンは約束を違えるようなひとではない。
 あのときの誓い。
 違えることなどないように、いつかはグレイスの元へ、どういう形かはわからないにしろ、来てくれるつもりだったに決まっている。
「それで、フレンの元に遣いをやって交渉していたのだけど、難儀したわ。そう簡単に応じてくれるはずなんてなかったもの。その間に、グレイスがダージル様に呼び出されたわね。婚約のこれからの話をされるのだと」
 レイアの話は続く。
 先日のグレイスのお出掛け。出遭ってしまった襲撃。
 そこへ話がやってくれば、心臓はひやっと冷たくなった。恐ろしかったことを思い出してしまって。
「この家の動きも探っていたから、その情報は受け取っていたのだけど、嫌な予感がしたわ。それで、二ヵ所へ連絡をしたの」
 二ヵ所、がどこかをグレイスはわかるような気がした。そしてその通りだった。
「フレンの元。それからアフレイド領の自警組織。馬を飛ばして急がせたのだけど……間に合って良かったわ。少なくともレイシスとグレイスのことは救うことができたのだから」
 すべてわかった。グレイスを助けにフレンと自警組織が駆け付けてくれた理由。
 フレンに至っては遠くにあるラッシュハルト領か、その付近にいたというのだから、そこから駆け付けてくれたのだ。
 胸がじんと熱くなる。
 フレンがどれほど急いでグレイスの元へ駆け付けてくれたというのを実感したから。
 それから感謝すべきは二ヵ所、だけではない。グレイスを気にかけ、諜報というのだろうか。その意味で力になってくれていた、目の前のレイアにも、である。
「おばあさま。……ありがとうございます」
 熱くなった胸は、同じ熱いものをグレイスの喉までこみ上げさせた。嬉しさと感謝と、それから喜びに涙が零れそうだ。
 けれどグレイスはなんとかそれを飲み込んだ。泣くところではないし、泣いている場合でもなかった。
 代わりに笑みを浮かべた。涙を飲み込んだあとでは作った笑顔だったけれど、悪い意味ではないのは伝わってくれただろう。レイアも微笑んでくれた。
「それで。……入ってきてちょうだい」
 言いかけて、レイアはふと視線を逸らした。部屋の扉のほうへ向ける。
 こんこん、と扉が音を立てた。
 グレイスはその音だけでわかってしまう。これは、こんな叩き方をするのは。

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