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コンビニおもてなし出張所 その1

 コンビニおもてなしでちょっとした人事異動を行うことになりました。
 ナカンコンベにあります5号店の人気が今もうなぎ登りで、日に日に来店者が増加傾向なものですから、その接客対応を強化するために、ルービアスを正式に5号店へ移動させることにした次第です。
 何しろ5号店は、本店から4号店までの中で一番来客数が多い2号店の倍近い来客を毎日記録していますからね。
 
 さて、となりますと本店の店員数が若干不安になってしまいます。
 と、いいますのも、今の本店の店員は

 店長の僕・副店長の魔王ビナスさん・イエロ・セーテン・ヤルメキス・ケロリン・アルカちゃん

 以上の合計7名なのですが、そのうち

 イエロとセーテンは狩り専門
 ヤルメキスとケロリンとアルカちゃんはスイーツ作成がメインのため接客対応に丸一日あたることは出来ません。

 そのため、接客仕事は僕・魔王ビナスさん・ルービアスの3人が主体になって行っていました。
 商品補充や店内の掃除などはスアが生成してくれた4体のアナザーボディが手伝ってくれていますので、そのおかげでこの人数でも接客をこなせていたのですが、3人が2人になるとなるとやはり若干不安を感じてしまいます。
 そこで、商店街組合にお願いして求人を出すことにしました。
 2,3人雇い入れて、本店で実地研修をしてもらいながらコンビニおもてなしの仕事に慣れていってもらおうと思っています。将来的に支店を増やす際にも即座に対応出来ますし、今のコンビニおもてなしなら若干多めに人を雇っても、その人件費を十分まかなえますからね……だからといって、無尽蔵に雇う気は毛頭ありませんけどね。人件費は支出の中でも一番出費がかさむ案件ですからね。しっかり検討し、十分気をつけないといけません。

 すると、商店街組合に広告を出した翌日、早速一人の女性がコンビニおもてなしを訪ねて来ました。
「あの、商店街組合の紹介でまいりました、フィオーリと申しますにゃん」
 商店街組合の紹介状によりますと、この女性は猫人さんのようです。短い耳と尻尾が見えますね。
 かなり幼く見えますがパラナミオよりもかなり年上のようでして、冒険者をなさっておられるそうです。
「……ん?」
 よく見直してみると、職業欄には確かに【冒険者】と記載されているのですが、その横に小さく【予定】と書かれていました。
「フィオーリさん、この冒険者予定って、どういうことです?」
「あぁ……あはは、あのですねぇ、冒険者にアタシはなる! って行って家を飛び出したまではよかったにゃんけど……冒険者の装備ってとってもお金がかかるにゃんね……まさか、あんなにお金がかかるとは思ってなかったにゃん」
「……それで、その装備を買うお金を稼ぎたいってことです?」
「はい、そうですにゃん。あ、でも、1年くらいは勤めさせてもらいますにゃん。しっかり頑張りますので、よろしくお願いしたいにゃん」
 そう言うと、フィオーリは深々と頭をさげました。
 商店街組合の事前調査によりますと、フィオーリは算術を得手にしているようですし、今話をしてみた感じからして接客もしっかりこなせそうな感じです。
 それに、1年は勤務してくれるというのなら、とりあえず問題ないかな。
 そう考えた僕は、フィオーリを雇用することにしました。
「とりあえず、しばらくは試用期間ってことでバイト扱いで勤務してもらうね。その後、問題なかったら正社員扱いにさせてもらうから、よろしくお願いします」
「了解しましたにゃん。こちらこそよろしくお願いしますにゃん」
 僕の言葉に、フィオーリは深々と頭を下げました。

 ちなみに、冒険者志望ということなので、
「もしなんでしたら、魔獣の狩りも経験してみます? ウチの社員数人が毎日狩りに行っていますので」
 そう言ってみたところ、
「ぜひお願いしたいにゃん! こう見えても短剣の腕には相当自信があるにゃん!」
 フィオーリは気合い満々の様子で、僕の前で剣を振るってみせてくれました。
 そんなわけで、翌日早速イエロとセーテンに頼んでフィオーリを狩りに同行させてもらったのですが……
「店長殿、この御仁、狩りには向いてないでござる」
 いつもより相当早く店に戻って来たイエロはそう言いながら苦笑していました。
 で、フィオーリさんはと言うと、気絶したままイエロに担がれて帰って来ていたのです。

 イエロによりますと、フィオーリさんは最初気合い満々な様子だったそうなのですが、最初の獲物に出くわした時点で
「む、む、む、無理ぃぃぃぃぃぃぃ」
 と言いながら気絶してしまったんだとか。
「たかがタテガミライオン10匹に囲まれたぐらいでこれでは、ちと先が思いやられるでござるよ」
 イエロは苦笑しながらそう言っています……が
 タテガミライオンは害獣の中でも相当高位にランクされているやっかいな魔獣なんです。
 辺境駐屯地体調のゴルアでも、一度に3匹と遭遇したら一目散に逃げ出すと言っていたほどなんですよね。
 そんなタテガミライオン10匹に囲まれて、2人だけで全部仕留めて帰って来ているイエロとセーテンが規格外すぎるだけなんですけど、目を覚ましたフィオーリは
「わ、わ、わ、私なんかが冒険者を志すなんて、百年早かったような気がしてますにゃん」
 そう言って、その日は一日中ガタガタ震えながら、おもてなし寮の自室に閉じこもりきりになってしまった次第です、はい。

 そんなことがありまして……
 フィオーリさんはその翌日から本店でのバイト勤務をスタートさせました。
 新人研修は僕が担当しています。
 とりあえず、最初は僕の後ろについて、接客の仕方を見てもらいながら、袋詰め作業なんかを徐々にこなしてもらいました。
 最初こそかなりもたついていたフィオーリですけど、半日もすると笑顔と元気な声で接客出来るようになっていました。
 この分ですと、戦力になれるのも割と早そうですね。

 対魔獣に関しては、タテガミライオンに囲まれた事がすっかりトラウマになってしまっているようなので、しばらくその話題は避けることにしようと思っています。

◇◇

 その翌日。
 ブリリアンがメイデンと一緒に本店に顔を出しました。

 今のブリリアンは店舗検討部門の責任者としてコンビニおもてなしの誘致を希望してくださっている都市や街・集落などに出向いてですね、どのような形でコンビニおもてなしを展開すべきか検討してもらっている次第です。
 しばらくの間、定期魔道船の操舵手業務をテレコに引き継ぎしていたメイデンも、その作業を終えて今では2人して各地を回っている次第です。

「店長殿、とりあえずテトテ集落に関する調査報告がまとまったので見てもらいたい」
 ブリリアンから手渡された報告書に、僕は早速目を通していきました。

 その報告書によりますと…… 
 テトテ集落は、総人口が多いとはいえず、加えてその大半がお年寄りということもありまして、
『コンビニおもてなしを出店するのには適していない』
 との報告になっていました。
 ですが、
『代替え案として、出張所での出店であれば問題ないと考える』
 との記述が続いていました。

 出張所と言えば、定期魔道船の中で展開している簡易版のコンビニおもてなしのことです。
 販売している品物は、お弁当や飲み物が中心で、ルアの武具やペリクドさんのガラス製品などは扱っていません。
「なるほど、出張所か……」
「はい、テトテ集落にはおもてなし商会もありますし、そこに出張所を併設してはいかがかと」
「でも、おもてなし商会はリンボアさん1人できりもりしてもらっているのに、出張所まで併設しちゃっても大丈夫かな?」
 そうなんですよね。
 リンボアさんは、あの集落の中では若手ではあるのですが、結構お年を召されています。
 ですので、おもてなし商会としてテトテ集落で収穫された農作物を買い取る作業に加えてコンビニおもてなし出張所の業務まで加わるとなると結構大変じゃないかと思った次第なんです。
 そのことを心配している僕に、ブリリアンは、
「それなら問題ありません。今、リンボアさんのお宅には冒険者のミミィさんが同居なさっておられますので」
「ミミィさんって、確かテトテ集落の用心棒として雇われてた豹人さんだよね?」
「はい。お仲間だった2人の方は集落を去られたのですが、ミミィさんだけは集落に残られていましてリンボアさんがされているおもてなし商会の仕事を手伝いながら引き続き用心棒の仕事もこなされているんです」
「へぇ、そうだったんだ。それなら今度様子見を兼ねて話を伺いにいってみようかな」
「はい、よろしくお願いいたします」
 ブリリアンはそう言って頭を下げました。

 しかし、今回の報告書ですけど……さすがはブリリアンですね。
 集落の現状を的確に把握した上でデータ化し、何をどうするのが最適なのかまでしっかりとまとめられています。
 そこには、一切の私情を挟んでいません。
 だからといってダメだから切り捨てるというのでは無く、代替え案までしっかり考えて提案してくれています。
 僕は、この仕事をブリリアンに任せてよかった、と、改めて思いながら、明日にでもテトテ集落のリンボアさんの元に出向いてみようと思っていました。

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