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 数年が経ち、グレイスはもう少しで十歳という頃になり、フレンは成人間近の年頃になっていた。
 活発な少女なのだ、それなりに自我が確立して、したいこともできることもどんどん増えていった。
 フレンも屋敷にすっかり馴染み、仕事も覚えて、一人の優秀な使用人として自立し、そして初めて出逢ったときの通りにずっとグレイスの傍にいてくれた。
 実のところ、グレイスがフレンに出逢う、ほんの一年ほど前にグレイスの母のアイリスは亡くなっていたのだ。フレンがグレイスの従者として宛がわれたのも、そのことが大きかったのだろう。
 グレイスはまだほんの子供だったので、母がいなくなったということは理解しても、それがどうしてなのかということまではわかっていなかった。
 ただ、泣いた。寂しくて悲しい気持ちだけはよく覚えている。
 そんなグレイスの傍には父と、それから当時は一緒に暮らしていた祖母のレイアとその夫の前領主、グレイスにとっての祖父など、近しいひとは何人もいた。決して独りぼっちだったわけではない。
 けれど父は思ったのだろう。情緒や教育のためにも、きょうだいに似た存在が傍にいると良いとか、教育係も兼ねられる者が良いとか、歳が近くてグレイスを理解してやれるような存在を傍に置きたかったとか。
 詳しい理由はわからないけれど、とにかくそういう類のことのはず。
 ただ、グレイスには当時から引っかかっていることがあった。
 それに関してはフレンに訊いたことがある。
「フレンのお父様やお母様は?」
 自分の父のことは勿論、理解していたし、母は亡くなったのだということも既に理解していた。
 そうであるからこそ、フレンはどうなのかということが気になる年頃になったともいえる。
 爽やかな初夏の日だったように思う。日差しが明るくて、風が心地よかったことはほんのり覚えているから。
 庭で話をしながら、ときにお茶など飲みながら、ふとグレイスはここしばらくの疑問を口に出したのだ。

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