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「それで、この子がお前の従者になる。従者とは、ずっと傍にいてお前の世話をしてくれるという意味だ」
 グレイスにとっては驚きだった。使用人、と聞いたときとはまるで違っていた。
 なにしろ自分の傍にずっといてくれる存在だというのだ。
 いきなりそんなひとができるとは思わなかった、と幼いグレイスは驚いて目を丸くしてしまったものだ。
「アイリスがもう逝ってしまったからな……少しでも助けになると良いが」
 ぼそりと父の言ったことの意味は当時のグレイスには理解ができなかったし、なんなら現在のグレイスも覚えてはいなかった。
 ただ、緊張した面持ちのフレンが執事長に促されて一歩踏み出し、そろっと手を差し出してくれたことは覚えている。
「フレン=グリーティアです。お嬢様、これからどうぞよろしくお願いいたします」
 緊張した様子ではあるが、丁寧な言葉と、優しい口調。ぎこちないながら笑みも浮かべてくれていた。
 きっと優しいひとね。
 グレイスは嬉しくなって、思わず「ええ、よろしく!」などと、あまり丁寧ではない言葉が出てしまったほどだ。
 グレイスも手を伸ばして、フレンの手に触れた。
 まだ少年であるフレンの手は、子供らしくごつさがなく、むしろふっくりしていると言っても良かったくらいだ。
 けれど、グレイスの手をしっかり、でも優しく握ってくれたその手のあたたかさ。
 グレイスはいくら成長しても、忘れずにずっと心の中に覚えていたのである。

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