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夏のお休みはドゴログマで その2

 おやつで軽く腹ごしらえを終えた僕達は、スアの魔法の絨毯にのって山の方へ向かって移動していきました。
 スアの目的である、このドゴログマにしか自生していない薬草が群生しているあたりを目指しています。

 ……しかし、これってよく考えたらあれですよね。
 このドゴログマって世界は、僕が元いた世界で例えるなら天国の一部みたいなわけです。
 スアは、そんな世界にしか存在しない薬草をこうして採取しにやってきては、それを使用して薬や魔法薬を作っているわけです。
 そうして出来上がった薬や魔法薬をコンビニおもてなしで販売しているわけなんですけど……これってよく考えたらすごすぎますよね……

 僕がそんなことを考えていると、その思考に気が付いたらしいスアが僕へ視線を向けてきました。
「……旦那様に出会えたことの方が、もっとすごいこと、よ……」
 スアは、子供達に聞こえないように配慮してか、僕の脳内に思念波で直接語りかけてきました。
 頬を赤く染めながらにっこり微笑んでいるスア。
 僕は、そんなスアの隣に移動すると、スアの手を優しく握りました。
 スアにそう思ってもらえているのがなんか嬉しかったんですよね。
◇◇

 いつもの森より少し奥にいったところでスアは魔法の絨毯を着陸させました。
 そこは、森の中ですけど少し開けた草原になっていまして、近くを小川が流れています。
「うわぁ、気持ちいいですねぇ」
 魔法の絨毯から下りたパラナミオが嬉しそうに伸びをしています。
 すると、パラナミオは僕の方を振り返ると、
「パパ、少しだけサラマンダーになってもいいですか?」
 そう言いました。

 パラナミオはサラマンダーです。
 今は人の姿をしていますけど、どっちかというとサラマンダーの姿の方が本当の姿になるそうなんです。
 そのため、こういう開放的な場所にくると、体をサラマンダー化させたくなるみたいなんですよね。
「そうだね、ここなら問題ないだろうし、いいんじゃないかな」
 僕がそう言うと、パラナミオは
「パパ、ありがとうございます!」
 嬉しそうにそう言うと、みんなから離れて行きましてそこで服を脱ぎ始め……おっと、いくら娘とはいえ、一応僕は視線を反らしておきました。
 巨大化したら着ている服が破れてしまいますので、そうならないように服を脱いでいるわけです。

 で

 全裸になったパラナミオは、
「ふん!」
 と、気合いを入れました。
 同時に、その体が一気に巨大化していきまして、大地の龍ことサラマンダーへと変化していきました。

 サラマンダーとは言いましても、パラナミオはまだお子様ですので、そんなに大きくありません。
 同族のサラマンダーということでパラナミオの事を何かと気にかけてくださっているサラさんくらいの年齢になると10m越えのでっかいサラマンダーになるそうなんですけど、パラナミオはその三分の一前後ってところでしょうか。

 サラマンダー化したパラナミオを始めて見たアルカちゃんは
「お、お、お、お聞きはしていましたアルけど、実際に見るとびっくりアルね……」
 目を丸くしながらサラマンダー化しているパラナミオを見つめていました。
 パラナミオは、そのまま小川に向かってのっしのっしと歩いていくと、そのまま小川の中へと入っていきました。
 そういえば、サラマンダー化したパラナミオは水浴びが大好きなんですよね。
 しばらく水につかりながら体を動かしていたパラナミオなのですが……よくみたら体の鱗がはげ始めていまいした。
 どうやら脱皮の時期でもあったようですね。
 パラナミオはそれもあってサラマンダー化したかったのかもしれません。
 
 サラマンダーであるパラナミオの鱗は貴重品でして、脱皮した後の鱗はルアの工房で武具なんかに加工してもらっているんですけど、それがすごい高値で取引されているんですよね。
 今でこそ、ルアに引き渡しているパラナミオの鱗ですけど、パラナミオが我が家にやってきて最初に脱皮した時の鱗は大事に保管してあります。
 他にも、リョータ・アルト・ムツキ達が最初に来ていた赤ちゃん服とか、使っていた哺乳瓶なんかも記念として取ってあるんですよね。
 なんといいますか、みんな大事な僕の子供ですからね、その記念品ってわけです、はい。

 で、そんなパラナミオの鱗を、スアが魔法で綺麗に剥がして魔法袋に保管していきました。
 鱗が剥がれた後のパラナミオって表面がぬめっとしているんですけど、パラナミオも
『あのぬめぬめ、気持ち悪いんです』
 って言っていたもんですから、リョータ・アルト・ムツキの3人が魔法で川の水をパラナミオにかけてあげまして、そのぬめりを綺麗に取り除いてあげました。
 みんなに体を洗ってもらっているパラナミオは、すごく気持ちよさそうに、ゴロゴロ喉を鳴らしながら川の中でうつ伏せになっています。

「……ん?」
 綺麗になっていくパラナミオの姿を見つめながら僕は首をひねりました。
 気のせい……ではなく、サラマンダー化しているパラナミオの体がどう見ても一回り大きくなっているんです。
 今までは、どちらかというと蜥蜴に近いフォルムだったのが、サラさんのような龍に近づいたような感じといいますか……

 その後、みんなに洗ってもらってすっかり綺麗になったパラナミオは、川から上がるとその体を人の姿へと戻していきました。
「え?」
 その姿を見た僕は、思わず目を丸くしました。
 いえね、ついさっきまでリョータやアルト達より少し大人びた程度だったパラナミオなのですが、その体が少し成長していたのです。
 まだまだ幼さの残っている容姿なんですけど、明らかに背が伸び、その体にはメリハリが出ていまして、顔つきも少しシュッとした、と、いいますか……

 そういえば、以前サラさんからお聞きしたことがあったのですが、サラマンダーって脱皮しながら成長していくそうなんですよね。
 で、まだ子供のパラナミオは早いサイクルでも脱皮を繰り返しながら成長していくのですが、その間に大きく成長する脱皮を時折挟むと言われていたんです
 おそらくですけど、今回の脱皮がちょうどその大きく成長する脱皮だったってことなんでしょう。

 パラナミオ本人は、自分の体がやや大きく成長したことに気が付いていないらしく、先ほど脱いだ服を身につけると
「パパ、気持ちよかったです」
 と、いつもの笑顔で僕の元に駆け寄ってきました。
 そのいつもと変わらない笑顔を見ていると、一回り大きくなったのも気のせいだったのかな、と、一瞬思ったのですが……いえいえ、間違いなく成長しています。
 脱皮前は体にぴったりフィットしていた服がですね、ちらっとヘソ出しスタイルになっていたんですよね。
 こうして子供の成長を実感出来るのって、なんかうれしいもんですね。

◇◇

 その後、みんなでスアの薬草を採取した後、河原でお弁当を食べました。
 弁当は、主に僕が作ったんですけど、今回はパラナミオとアルカちゃんも手伝ってくれています。
 パラナミオはおにぎりを丸めてくれて、アルカちゃんは卵焼きを頑張ってくれました。
 おかずやおにぎりがつまっている重箱をシートの上に並べると、
「うわぁ、美味しそうですわ」
「とっても素敵にゃしぃ」
 と、アルトとムツキが歓声をあげていました。

 で、アルカちゃんはですね、自分の作った卵焼きを取り皿にのせると
「りょ、りょ、りょ、リョータ様、こ、こ、こ、これ、私が作ったアル」
 すっごい緊張した様子で、そのお皿をリョータに差し出していました。
 するとリョータは
「うわぁ、とっても美味しそうですね」
 笑顔でそれを受け取ると、早速それを口に運んでいきました。
 そして、それをゆっくり噛みしめてから飲み込むと、
「うん、とっても美味しいです!」
 満面の笑顔でそう言いました。
 その笑顔を見たアルカちゃんは、ぱぁっと顔をほころばせて
「うれしいアル、もっと食べてほしいアル」
 そう言いながら、お重の中の卵焼きをどんどんリョータのお皿の上にのせていきました。
 卵焼きで取り皿がいっぱいになってしまったリョータなのですが、
「うん、とっても美味しそうです、すごく嬉しいです!」
 と、嫌そうな顔一つすることなく、満面の笑顔のまま、その山盛りの卵焼きを食べていきました。
 アルカちゃんは、そんなリョータを嬉しそうに見つめています。
 真正面から見たら、おそらくその目の中にハートが浮かんでいるんじゃないかな? ってほどの熱視線ぶりです、はい。
 と、そんな2人を微笑ましく見つめていた僕なのですが、そんな僕の目の前におにぎりが山盛りになった取り皿が差し出されてきました。
「パパ、これパラナミオが握ったおにぎりです!」
 パラナミオは、満面の笑み浮かべながらそう言いました。
 その取り皿には、おにぎりが10個は乗っているでしょうか……
 僕は、その取り皿の上のおにぎりを見つめた後、パラナミオへと視線を向けると、
「うん、とっても美味しそうだね、すごく嬉しいよ」
 と、嫌そうな顔一つすることなく、満面の笑顔のまま、その山盛りのおにぎりを食べていきました。

 えぇ、パパとして、パラナミオの期待に応えませんとね。
 でも、ホントにこのおにぎり、ほどよく握られていてとても美味しいです。
 10個完食した僕は、他に何も食べる事が出来ませんでしたけど、悔いはありません。
 ちなみに、おにぎりを食べている僕を見つめているパラナミオの瞳の中にはハートが浮かんでいた次第です、はい。

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