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夏祭り×夏祭り その6

 ガタコンベで開催されていますブラコンベ辺境都市連合の夏祭りは、お昼を過ぎるとさらにお客さんの数が増え始めました。
 近隣の集落からのお客さんが増え始めたのに加えて、昨夜ララコンベの温泉宿に宿泊していたお客さん達が定期魔道船に乗って続々とやってこられ始めたのが大きいように思います。
 ララコンベからこのガタコンベまでは、馬車で移動していたら1日かかってしまっていましたから、以前でしたらこのような人の流れが発生することはあり得なかったんですよね。そういった意味でも、この定期魔道船の就航に尽力してくれたスアと、結果的にこの魔導船を飛べる状態にまでに改修してくれたメイデンには感謝しないといけません。

 午前中から結構な暑さになりつつあったガタコンベの街中なのですが……実は今はそこまで暑くなっていません。
 と、いうのもですね、ガタコンベの街中をスアの使い魔の森に住んでいる冷属性の使い魔達が大挙してうろうろしてくれているおかげで、街道が割とひんやりしているんです、はい。
 あまり目立たないようにと、スアに姿形変更魔法をかけてもらって、普通の亜人の姿に変化しているシオンガンタやユキメノームといった、いつも交代しながら本店の地下にある冷蔵倉庫を冷やしてくれている面々が、街道に冷気を振りまきながら歩いてくれているわけです。
 ただ、この面々はですね、よく地下室に遊びにいっているパラナミオとすっかり仲良くなっているものですから、気が付くとパラナミオの様子を見ようと、僕達の出店の周囲に全員が集中してしまう事態が頻発してですね、出店の一帯がまるで氷河期のような寒さになってしまうことも少なくなかったわけでして……

 みんなが頑張って冷気を振りまいてくれているとはいえ、日差しはやはりきついです。
 そのおかげで、リョータとムツキが販売しているかき氷はすごい勢いで売れ続けています。
 その結果……大量に準備していた氷が昼過ぎにはかなり少なくなってしまって少々焦ってしまいました。
「パパ、どうしましょう……」
「これは危険ですわ……」
 リョータとアルトも心配顔になってしまっていたのですが、この事態をなんとかしてくれたのはスアでした。
 この事態を受けまして、スアは思念波通信でハニワ馬のヴィヴィランテスを呼びました。
 ほどなくして、出店に姿を見せたヴィヴィランテスは
「スア様ぁ、ご要望の樽入りのお水、めいっぱい持ってきましたわよ」
 いつものおネエ口調でそう言いいながら、運んで来た魔法袋をスアが籠もっている木箱に向かって咥えて差し出しました。
 その中に、スアの使い魔の森の綺麗な水が詰まっている木樽が目一杯入っていました。
 で、スアはそれを魔法で氷のブロックに変換しては、リョータ達が氷を詰めている魔法袋の中へと転送していきました。
 このおかげで、どうにか氷切れにならずに済んだ次第です、はい。

 で、ここで、意外な事が起きたんですよね……
 いえね、ハニワ馬姿のヴィヴィランテスが出現したことで、
「あ、お馬さん!」
「うわぁ、可愛い!」
 と、いった感じで、キュアキュア5の商品目当てで店内に集まっていた子供達が、こぞってヴィヴィランテスの周囲を取り囲んでいったんです。
 ヴィヴィランテスは、
「ちょ、ちょっとあんた達、確かにアタシは乙女が好みの水晶一角獣(クリスタルユニコーン)だけどさ、ガキはお呼びじゃないのよ、ガキは、って、これ、何勝手に人の背に乗ってんのよ!」
 と、まぁ、必死になってその場から逃げだそうとしていたのですが、いつの間にか背に乗られてしまいまして……で、気が付けば、試食を配っているルービアスが、
「はいはい、ヴィヴィランテスのお馬さんに乗りたい人はこっちにならんでくださいね! 順番だよ~」
 と言いながら、順番整理までし始めていた次第です。
 まぁ、ぶつぶつ言っていたヴィヴィランテスなんですけど、
「ほら、しっかり掴まんなさい」
「気をつけて降りるのよ」
 と、いった感じで、背に子供達を乗せて周囲を少し歩いては、その子供達に優しい言葉をかけたりしていた次第です。
 なんのかんの言いながらも、やっぱりヴィヴィランテスっていい奴なんですよね。

◇◇

 夕方になっても、来場者の数はまったく減っている様子がありません。
 ちなみに、この時間になりますと3号店以外のコンビニおもてなしが閉店時間になります。
 その関係で、本・支店のみんなが大挙して出店に顔を出してくれました。
 ここで、子供達のお手伝いを終了にしてですね、魔王ビナスさんとクマンコさんにお願いして、みんな一緒にお祭りを回ってきてもらうことにしました。
 クマンコさんはご自分の子供さん達も連れてこられていたものですから、結構な集団になっています。
 我が家のパラナミオも、ここぞとばかりに
「さぁ、パラナミオお姉ちゃんの言うことも聞いてくださいね」
 そう、クマンコさんの子供達に声をかけていました。
 魔王ビナスさん達が出発してしばらくすると、今度はフク集落のピラミちゃん達が、ファラさんと一緒にやってきました。
 ピラミちゃんは、パラナミオが祭りを見に出かけた後だと聞くと、
「そうコンか……一緒にお祭りを回りたかったコン」
 そう言いながら残念そうな表情をしていたのですが、それを見るなりファラさんが、
「すぐに追いかけるわよ、大丈夫、この私が絶対に見つけてあげるから」
 そう言うが早いか、ピラミちゃん達を引き連れて祭りの中へと小走りに進んで行きました。

 で、残されたコンビニおもてなし出店の中では、クローコさんやシャルンエッセンス、シルメールといった各店舗の店長達がメインになってお手伝いをしてくれていました。
 これで3号店店長のエレがいたら、コンビニおもてなし最強メンバーといえなくもありませんね。
 さすがにこのメンバーですと、販売も手慣れたものでして、結構なお客さんが押し寄せてきているにも関わらずそのお客さん達を手際よく応対してに回転させていました。
 で、コンビニおもてなし目当てでやってこられていたお客さん達が、ウチの出店での買い物が早く済んだもんですから、ついでとばかりに周囲の出店も覗かれて……といった相乗効果があちこちに波及していまして、この界隈の出店の売り上げはかなりのものになったそうです。
 そのおかげで、あとで周囲の出店の皆さんからお礼を言われまくったんですよね。

 いつの間にか、夜も更けてきました。
 ここで、スアの出番と相成りました。
 
 出店をみんなに任せた僕は、スアと一緒にコンビニおもてなし本店へ戻りました。
 人の気配の無い店の裏へと移動した僕達は、スアが召喚した魔法の絨毯に乗り、そのまま宙へ浮かんでいきました。
 ある程度の高さまで移動すると、スアは
「……じゃ、やるね」
 そう言うと、手に持っていた魔法樹の杖を夜空に向かってかざしました。
 すると、夜夜空に極彩色の光が舞い始めました。
 万華鏡が夜空全部を使って展開している、そんな光景が夜空一杯に広がっています。
 その度に、
『ドーン』
『ドーン』
 と言った、まるで八尺玉が破裂したような音まで響いています。
 この魔法って、以前は音がしていなかったんですよね。
 で、僕の助言を参考にしながらスアが魔法に工夫を加えまして、こうして音までなるように進化させたんです。
 極彩色の光りがぱぁっと広がる度に、『ドーン』と音が響いていきます。
 最初、街道からは始めて耳にする破裂音を前にして、びっくりしたような声もあがっていたのですが、その声は徐々に拍手と歓声に変わっていきました。

「……みんな、喜んでくれてる?」
「うん、みたいだね」
 僕の言葉を聞いたスアは、嬉しそうに微笑みました。
 スアは、魔法の杖を夜空に向けたまま、魔法の絨毯の上であぐらをかいて座っている僕の上にちょこんと座りました。
「……旦那様と一緒に、こうしているの……好きかも」
 スアは、そう言うと僕を見上げながら目を閉じました。
 僕は、そんなスアに顔を寄せると優しく唇を重ねていきました。
 
 綺麗な魔法の花火の下で、僕とスアはしばし口づけを交わしていきました。

 こうして、夏祭り初日の夜は大歓声とともに過ぎていきました。

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