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第31話 地上へ

「ここは?」

 今まで見たことがない場所に、たどり着いていた。エルもリリーもこの場所は知らない。
まさしく神話の世界にある神殿というべき場所がそこにあった。

「アルトロイヤ神殿! レン、あのダンジョンから、かなり遠いところだ」

「リリー知っているのか?」

「ああ。ここは、帝国の遥か南に位置する場所だ。まさかこことはね」

「神殿というよりは要塞に近いな……」

 白色大理石を用いたと思われる石材で全体が白い。眩くすら感じる。
遺跡なのか、今も使われているのかこの距離ではまだわからない。

「リリー、ここは今でもよく利用があるのか?」

「私の聞いた話だと、年に数回儀式で利用するぐらいと聞くぞ」

 そうなら、儀式の日に鉢合わせしない限り、人には遭遇しないだろう。
近隣には神殿しかないため、長距離転移魔法陣があるか確認をしにいく。

 何もない荒野をあること三十分。

「デカイな」

「かなりあるわね」

「私もここまで近づいたのは、初めてだぞ」

 二対の天使像が門の石柱として存在する姿も圧巻だ。この大きさだけで十メートルはあるだろう。
城壁のような壁がこの神殿を取り囲むようにして存在している。
いずれも大理石素材で、外壁側は白乳色だ。

 門は開いていたため、そのまま中に入っていく。
目の前にある神殿までつながる道は、両脇に一定の感覚で三メートルほどの石造が立ち並ぶ
歴戦の強者だろうか。騎士や魔法士などの姿形をした者が並ぶ。

 整った様子を見る限り、定期的に誰かが手入れをしている様子がうかがえる。

 神殿の入り口に進み中に入ると、何もない空間がそこにある。いわゆる空の状態だ。
大理石が敷き詰められており、こちらもチリ一つないほどで、静謐な様子がうかがえる。

 先ほどから、拭いきれない違和感があった。

 その正体は、この建物自体の縮小版を以前、見たことがある。
俺が悪魔だったころいた世界に、酷似した物があった。
導かれるようにしてきたこの場所は、何かの偶然なのかそれとも……。

「レン、あそこに座っているのは女神じゃないか?」

「俺が知る内の一人に酷似はしているな」

 豪奢で王族が座るような椅子に腰掛ける奴がいる。

「あの姿は、実体に見えるけど幻影ね」

 エルは気がついたようにいった。俺たちがここにくることを予見していたのだろうか。

 俺たちが近づくに連れ、女神に似つかわしくなくニヤニヤと顔つきを変える。

「レン、久しいですね」

「なぜ、お前がそこにいる?」

「私も問いたいですね。なぜあなたがここにいるのかと」

「なぜ、俺に関わる?」

「なぜかしら? レン、あなたが気になるからですよ」

「俺はお前らを全員殺すまで死ねない。お前たち全員の命で償わせてやる」

「おやおや、随分とご立腹ですね。まあ仕方ありませんね。
彼女のしたことは我々でも目に余る。止めたのですけどね」

「今さら言い訳か? 何が言いたい」

「レン、もうこれ以上召喚士や焼印師に、関わって欲しくないのですよ」

「脅しか? それとも願望か?」

「いえいえ、切実な願いですよ。受け入れられないなら、私たちにも考えがあります」

「やはり脅しか……。おかげで、やり残したことを思い出したよ」

「やり残しですか?」

「ああ。……お前だ。殺し忘れていたよ」

「ダークボルト!」

 玉座に向けて放つと椅子もろともすべて消え失せた。
あの幻影は何を言いたかったのか、今となってはどうでもいい。
問題は、俺の意図も行動も筒抜けなわけだ。

 あの様子からすると、俺が接することでのメリットが大きいことの裏返しでしかない。
ある意味、証明してくれたわけだ。

 奴ら女神たちにとって、俺が焼印を入れることが脅威でもあるといえるだろう。
尚更、入れなければならないとも考えていた。ただ召喚士はどういうことなのか……。

 どうやら部屋はここ以外に見当たらなく、転移魔法陣は見つからないままだ。

 おかしな話で、わざわざ破壊するために訪れたような物だ。
あの広間は、ダークボルトが通過した場所を中心に焼け焦げて、向こう側まで貫通。
今回の攻撃によって、散々な状態になっている。

 おそらく信者たちが見たら、卒倒する勢いなほど破壊の限りを尽くしている。
ダークボルトはまっすぐには標的に向かうけども、道中は左右にジグザグに進行する。
当然その状態の時に触れれば、跡形もなく消失する。

 そんな動きをすれば当然、周囲の損壊状態は目も当てられない。
かなり奥まで貫いているので、最悪この神殿が崩壊してもおかしくはないだろう。
願わくは、俺たちが脱出するまで、なんともないことを願おう。

 人目につかない内に俺たちは、この場所を離れた。

「結局アレはなんだったのかしら?」

 俺も含めておかしな話で、建物の損壊には何一つ言及していない。
それだけ興味もなく、無関心なだけだった。

 関心ごとはもっぱら女神の幻影と俺たちの行動を”何を・どうやって”、知っているかだ。
どこに目耳があるのか、今のところはわからない。

 まるで俺に、破壊して欲しいと言っているようなものだ

「レン、この付近に町が確かあったはずだ。確か北上した先にあったぞ」

「そこには、転移魔法陣はあるか?」

「直接立ち寄ったわけじゃないから、わからないんだ」

「大丈夫だ。久しぶりにゆっくり向かうか」

「そうだな! たまにはいいな!」

「ええ。そうしましょう」

 俺たち三人は歩いて次の町に向かう。

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