バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

 リリスは珍しく饒舌だった。勝手に話しているのではなく、グレイスの心を軽くするために話してくれているのだろう。グレイスは時折相槌を打ちながらそれを聞いた。
 数十分も経っただろうか、リリスは「すみません、長話を」と立ち上がった。長くなったのでソファの隣に腰掛けてくれていたのだった。
「そろそろお休みになられますか?」
 まだ昼間であるが、病み上がり、というか、治り切っていない状態である。グレイスは少しの疲れを覚えていたところもあり、「そうするわ」と答えた。
「大丈夫ですよ。なにもかも上手くいきますから」
 グレイスをベッドに入れてくれて、リリスはグレイスの髪を優しく撫でて言ってくれた。そしてお辞儀をして部屋から出ていった。
 一人になって、布団にくるまって、グレイスは息をつく。
 リリスと話ができたことで、少し気持ちは軽くなった。少なくともダージルとあったことについては、だいぶ気持ちの整理がついた。
 でも、もうひとつ。こちらのほうが、実は遥かに重大な、もうひとつ。
 どうしたってひとには言えない。
 そんな、……婚約者を袖にするようなことをして、密かな想い人の従者とくちづけをしてしまったなど。
 思い出しただけで、顔が熱くなるやら、逆に青くなりそうやらなことである。
 どうしたらいいのか。グレイスにはまったくわからなかった。
 フレンが自分に応えてくれたのは嬉しい。
 取り乱していたところとはいえ、抱きしめてくちづけてくれたことが嬉しい。
 けれど、それからどうなるのかと考えると、心臓は冷えていってしまうのだった。

しおり