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夏祭り×夏祭り その4

 昼前に目覚めたアルカちゃんはすぐにヤルメキス達と一緒にスイーツ作りを行おうとしたんですけど、その途端にまたお腹が鳴ってしまい、
「リョータ様の前でまたやってしまったアル……お恥ずかしいアル……」
 そう言って真っ赤になってしまいました。
 そんなわけで、少し早めにみんなでお昼ご飯を食べることにしました。
 祭り用のヤルメキススイーツを大量に作成中のヤルメキスとケロリンも呼んでみんなで一緒に食べたのですが、アルカちゃんは右隣にリョータが座っているのでデレッとなりながらも、左隣にヤルメキスが座っているもんだから緊張でピシッとなりつつ、と、まぁ、なんか一人百面相状態になっていて、次回またこの面子で食事をすることがあるなら、ちょっと席の位置を調整してあげないとなぁ、と、思った次第です。

 昼食を終えると、
「ではヤルメキス師匠とケロリン師匠、ご指導ご鞭撻よろしくアル」
 アルカちゃんはそう言って深々と頭を下げました。
 それに対して、ヤルメキスとケロリンも
「こ、こ、こ、こちらこそよろしくお願いするでごじゃりまする」
「い、い、い、一緒にがんばりましょうねぇ」
 笑顔でそう返事を返していたのですが、お互いに
「こ、こ、こ、こちらこそよろしくアル」
「こ、こ、こ、こちらこそよろしくでおじゃりまする」
「よ、よ、よ、よろしくお願いしますねぇ」
 と、まぁ、際限なく頭を下げあい続けた結果、いつのまにか3人して土下座していたわけでして……やっぱりヤルメキススイーツに関わると、みんな土下座が通常行動になってしまうんですかね?

 ヤルメキス達の作業に加わったアルカちゃんですが、お父さんお店の手伝いをしていたというだけあってかなり手際がいいです。
 ヤルメキスから洋風の、ケロリンから和風のスイーツの手ほどきを受けると、ほんの数回でその手順を覚えてしまうんです。
 手順こそ覚えてはいるのですが、その精度といいますか出来映えはさすがにヤルメキスとケロリンにはまだまだ遠く及びません。
 ただ、アルカちゃんはとにかく真面目で一生懸命でして
「あ、あ、あ、アルカちゃん、ここはこうやるのでごじゃる」
「は、は、は、はいアル、わかったアル」
「あ、あ、あ、アルカちゃん、こっちのこれはね、こうやってほしいんだなぁ」
「は、は、は、はいアル、わかったアル」
 ヤルメキスとケロリンの指導を一生懸命に聞いては、丁寧に返事を返して、目一杯集中して作業を行っているんです。
 この調子ですと、アルカちゃんが一人で作業を行えるようになるのもそんなに遠くはないのではないかと思えてなりません。

 ちなみに、アルカちゃんが作成したアルカスイーツは、僕が少しアレンジを加えました。
 砂糖を加えて甘みを増した上で全体的な味を調整しまして、小さく刻んだ果物を添えてみたのですが、アルカちゃんのレシピがしっかりしているのでこうしてちょっと手を加えただけで十分コンビニおもてなしで販売出来るレベルになった次第です。
 このアルカスイーツは、杏仁豆腐に似ていることからアルカドウフと命名させてもらった次第です。
 で、早速このアルカドウフをヤルメキススイーツの関連商品として、まずは夏祭りで販売することにしたんですけど、それを聞いたアルカちゃんは
「う、う、う、嬉しいアル、パパと一緒に考えたレシピアル」
 そう言って、嬉しそうに笑っていました。

 日暮れまで作業を行ったヤルメキスとケロリンとアルカちゃん。
 僕は、昼過ぎから打ち合わせのために会場に出向いていたのですが、3人は結局夕暮れまで作業を行っていたようです。
 僕が帰宅した後、みんなで一緒に夕飯を食べまして、いざお風呂……となったのですけど、

「わ、わ、わ、私も、皆様とご一緒いたしたいアル……」
 アルカちゃんは満面の笑顔でパラナミオ達と一緒にお風呂に入って来ました。
 まぁ、年齢的にはみんなで一緒にお風呂に入ってもおかしくないわけですし、こういった仕草は年相応なんだなぁ、と、少し安堵した次第です。
 ただ、リョータに、
「アルカちゃん、洗いっこしよう」
 って言われた時には最初こそ少し恥ずかしそうにしてたんですけど、結局楽しそうにお互いに背中を洗いっこしていた次第です。

 慣れない作業を頑張ったのもあってか、アルカちゃんはお風呂からあがるとすぐにウトウトし始めてしまいました。
 そこで、僕は子供達をすぐにベッドに連れていきました。
 ベッドの中、リョータの隣で横になったアルカちゃんはすぐに寝息を立て始めました。
 リョータも、そんなアルカちゃんに釣られるようにしてすぐに寝息を立て始めたのですが、2人は意識してか無意識になのかはわかりませんが、お互いに手を握り合って眠っていました。
 なんといいますか、微笑ましいですね。

◇◇

 翌朝の夜明け前。
 目を覚ました僕は起き上がると、みんなを起こさないように気をつけながらベッドを降り、厨房へと移動していきました。
 今日から始まる夏祭りで販売するための弁当を作成するためです。
 厨房には、すでに副店長の魔王ビナスさんをはじめ、ヤルメキスとケロリンが作業を始めていました。
「みんなおはよう、今日からの夏祭り、よろしくね」
 僕の言葉に、みんなも笑顔で頷いてくれました。

 1時間ほど厨房で作業を行った僕達は、全員で店を出発しました。
 隣にあるおもてなし酒場からは、イエロとセーテンの歌声が聞こえて来ていますけど、どうやら今日も常連さん達と一緒に朝まで飲み明かしていたようですね。 
 特に昨日は祭りの前日と言うこともありますので、今日からの祭りに参加する各地の商人さん達もおもてなし酒場の2,3階にあります宿に宿泊していましたので、その人達も一緒になって盛り上がっていたのかも……
 そんなことを思いながらおもてなし酒場を見ていたら、その玄関からドンタコスゥコが姿を現しました。
「おやおやこれはこれは店長さんですねぇ……いやいやイエロ殿とセーテン殿は相変わらず容赦ないですねぇ」
 ドンタコスゥコは真っ赤な顔でそう言うと、千鳥足で酒場の中に戻っていきました。

 ……そう言えば、今回の祭りに参加するからって、ドンタコスゥコ達も泊まっていたんでした……
 ……しかし、あそこまで泥酔してて、数時間後に始まる祭りは大丈夫なんですかね……

 ドンタコスゥコの事を少し心配しながらも、僕達は中央広場の真ん中の一角にありますコンビニおもてなしの出店へと入っていきました。
 広場の中は、元セーテン山賊団の猿人達が盗人対策で厳重に警備してくれていますので、出店の準備をしているみなさんも、安心してこの場を離れることが出来ています。
 もっとも、僕達コンビニおもてなしの出店には、スアが結界魔法を展開してくれていますのでさらに安心なんです。
 で、この結界は僕は出店の中に入ると解除される仕組みになっていますので、今はすでに解除済みです。はい。

 今日の出店は、僕が中心になりまして、5号店の試食の達人ルービアスと、ヤルメキス、それに我が家のスアをはじめとした一家総出で手伝いをしてくれることになっています。
 まだ暑いので、ティーケー海岸出店でやったように、かき氷の実演販売をリョータとアルトに、アイスの販売をムツキにお願いするつもりです。
 パラナミオには、店員として全体的な接客の手伝いを、アルカちゃんはヤルメキスと一緒にヤルメキススイーツの販売を行ってもらう予定にしています。
 僕はといいますと、簡易竈で炭火で串焼きなんかを作成しながらメインで接客を行う予定にしています。

 スアは僕の背後で木箱に隠れて、いつものようにアナザーボディを駆使して接客の補助や品物の補充をしてもらう予定です。

 あれこれ出店の中を確認していると、本店の方角からスアやパラナミオ達が一団になって歩いてくるのが見えました。その中にはルービアスの姿もあります。
 その姿を確認した僕は
「じゃあビナスさん、ケロリン、本店の方はよろしくお願いしますね」
「はい、おまかせくださいな」
「は、は、は、はい、かしこまりぃ」
 魔王ビナスさんとケロリンはそう言うと、本店へと戻って行きました。

 さぁ、いよいよ夏祭りが始まります。

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