バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

もっと一緒に居たかった

私は最初君の事を助けようとしました。君の持つスキルならばその力を悪用することもないだろうし。なにより君は私と境遇がよく似ていたからです。しかし、君はあまりにも弱すぎた。その心が、力が、あまりにもちっぽけで何も変えられないことに。気付き始めたのです。
そこで考えた末に君を殺すことにしたのです。それが君にとって一番の救いになるだろうと思っていました。ですが君は何も知らないまま殺されていった。
私はそれを聞いて非常に残念に思って、それで…… ふっ、馬鹿らしい。なんですかこれ、全部嘘じゃないですか、全く私らしくもない…… ああもういいや面倒くさい。真也、君はね。私の作った擬似的にオーバードと同じ力を持つことが出来る薬を投与されていたんです。
つまりあなたが感じていた痛みというのはその副作用のようなもので、その苦しみから解放される唯一の方法は薬の服用をやめることだったのですよ。」
真也は自分の体がどんどん冷たくなるような気がしていた。しかし彼の頭の中でその事実を受け入れることが何故かできなかった。いや、本当は分かっているのだ。だがそれでも認めたくない、そう思った。
真也がソフィアの言葉を理解するとともにその思考がどんどんと黒くなっていく。自分は一体なぜここにいるのだろうか、どうして自分がこんな目に遭わなければいけないのだろうか、この痛みは、苦しみは、この気持ちは……全て……作られたもの……? 真也が暗い考えに支配されていく最中、彼の脳内に優しい女性の声が届いた。
(真也さん!)
それに続いて再び優しくも力強い声が頭に響いた。
(真也、大丈夫か。俺の言ってる事が分かるか?)
(レオナ先輩……)
(良かった、まだ正気みたいね)
(え……伊織!? 美咲ちゃんまで……)
(おーっと真也君。ここは病院ですよ。静かにしないと怒られてしまいます)
(あ……)
(まったくもう、世話の焼ける人ですね。真也さん。ソフィア様のお話は本当のことなんですよ? 落ち着いてよく聞いてください)
「お兄様に呼ばれてきたらお母さまがいなくなっててびっくりいたしまして、探し回ってたらお姉さまにここに連れてこられて……。
わたくしもソフィア様にお聞きするまで、真也さんに何が起こっていたのか存じませんでしたけど。真也さん。これはお芝居ではありません。ソフィア様は……ソフィア・サーヴィス様は真也さんのご病気を治して下さった方です。そしてこれから先、真也さんをお守りしてくれるお医者様なんです!」
「真也は……真也は本当に何も知らなかったんだ。でも今はどうか分からない、きっといつか、真也を傷つける。お願いしますソフィア先生。真也をこれ以上追い詰めないであげてください」
「あらあら、困ったものです。そんなに泣かないの」
2人の涙を見た真也は胸を掻きむしりたくなるほどの罪悪感に襲われる。しかしそれと同時に彼の中にある黒いものが徐々に大きくなっていることも感じられた。それはまるで、この2人を自分の中に取り込みたいと言っているようでもあった。
彼は自分がどうすればいいのか、何をしたいのか分からなくなった。ただひたすら、申し訳なかった。そして同時に怖くなった。真也の視界が再び滲む。真也はその感情に飲み込まれないようにと必死に耐えたが、一度流れ出したものは止まることがなかった。
その時彼は無意識に口を開いて言葉を発してしまった。それは彼の本心ではない、しかし、彼が今口にできる限界の発言であった。
「僕は……ただ…………」
「ただ、みんなと一緒に居たかっただけなのに」
その一言を発した途端、部屋の中に重苦しい沈黙が流れる。真也はハッとして周りを見ると皆が自分の方を見ていることに気づいた。それは憐れみとも怒りともいえる視線であったが。
彼はその瞬間自分が何を言ったのか、自分の気持ちすら理解できないほど取り乱し、その場に立ち上がって走り出す。
しかしそれを制止する手があった。
ソフィアだ。彼女は立ち上がった彼を抱きしめるように後ろから手を回し、その小さな背中をさすりつつ、耳元でささやくように話しかけた。その顔には慈愛に満ちた笑みを浮かべている。
真也はそれを認識した途端、全身の血流が全て心臓に向かって流れるような感覚に襲われ、呼吸困難に陥る。
その状態のまま彼はベッドに押し戻され、布団をかけなおされた後、ソフィアに頭を撫でられる。その暖かさに真也は再び意識を失いそうになった。
(真也君。ゆっくり休みなさい。君の病は私に任せておくといい)
彼女の言葉を聞いた真也は、抵抗することなく、静かに眠りへと落ちて行った。
(まあ、真也くんがどんなに願っても叶わない願いがあるという事を実感するのはまだまだ先のことでしょうが。それでも……そうね、少なくとも今は……)
(真也さんが幸せでいてくれれば私はそれでいいんです…

 
挿絵

しおり