バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

彼女が抱きしめてくれた

その問いに彼女は答えられなかった。彼女自身、自分がどこに行くべきかは分からないのだから。だが、それでも自分の信じたものに従いたかったのであろう。彼女は意を決して言う。
「私の師匠はその場所に真也君のことを導いてくださるでしょう。その道行はきっと苦しいものですし辛いことでしょう。
でも真也君には世界を救う使命があるのであります! この絵の世界からみんなを助けることが出来るのはあなたしかいないのでございます!」
その言葉で真也は確信した。あの時見た不思議な光景は夢なんかではなかった。あれは本当にあった事だったのだろうと。真也の脳裏にある言葉が流れる。
(「僕はね真也。本当はもっとずっと昔から分かってたんだよ。でも目を背けてきたんだ。現実を直視したくないから……。でもね。君が見せてくれた。あの時の君は凄く強くて。カッコよかったよ。もう逃げちゃダメなんだなってわかった気がするんだ……。ありがと……」)
あれは彼の親友、伊織の言葉だったと真也は思い出す。そうだ、俺が目を逸らし続け、向き合おうとしなかったせいで彼は死んでしまったのだ。彼はもう目を逸らすのをやめたのだ。ならば俺がやるしかないじゃないか。彼は覚悟を決めて言った。
「僕、行きます」
そう言い切った彼に女はほっとした顔を浮かべたがすぐに引き締め直すと。手を差し出した。
「分かりました。ならこれをお持ちください。きっとあなたの力になるでございましょう」
彼は女の手のひらを見るとそこに乗っていたものをつまみ上げる。
それは一枚のカードであった。そこには何かの図形が描かれていた。彼は女を見上げ、質問する。「これって何なんですか? 地図?」
しかし彼はその質問に対して首を振った。これはそんな簡単なものではないのだと。女は説明する。これは一種の通信手段であるという事。またこの場所に帰ってくるためのものでもあるという事、この魔法具を持っている間は自分の精神体がその座標上に浮かんでいるために迷子になることは無いということなどを彼は理解することは出来なかったが。とにかく大事なものだということは分かったようだ。
女は彼をしっかりと抱きしめると言った。

しおり