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 ふとグレイスの体の拘束が解かれた。
 体が離れてしまう。せっかくあたたかく感じた体が。
 一瞬だけ冷えてしまいそうになったけれど、すぐにグレイスの熱は再び灯る。
 頬になにか触れたのだから。
 濡れた感触だった。
 でもわかる。その奥にはあたたかな体温を持った手があること。グレイスが一番好きで、一番安心できる手だ。
 その手に頬を持ち上げられて、グレイスは見た。涙と雨でだいぶ視界が歪んでいたけれど、見えた色は、グレイス自身の瞳を映したような翠色。
 体は震えなかった。代わりにほわっとあたたかくなる。
 その色だけでじゅうぶんだった。どんな表情をしているのかが見えなくても。それだけで。
 ふわり、と触れた一瞬。
 まぶたを閉じる寸前、グレイスの目に焼き付いたのは、新緑のような鮮やかな色だった。

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