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夏祭り×夏祭り その1

 今日は休日ですが、いつものように早くに起き出した僕はティーケー海岸出店へと出向きました。
 今朝からティーケー海岸出店の担当が4号店から3号店にバトンタッチになるので、その立ち会いといいますか、注意事項の伝達……主に、4号店のクローコさん達が受け持っていた間に何か気になったこととかなかったかどうか確認するために出向いた次第です。
「うにゅう……出店的には問題なかったみたいな?……」
 クローコさんは、僕を見るなりそう言い出しました。
 そこか不満そうといいますか、悔しそうといいますか……
「え? 何かあったのかい?」
「クローコ……まったくナンパされなかったし……」
 その言葉に、僕は思わずガクッとなってしまいました。
 ま、まぁ……確かにクローコさんってば、だんだん布面積の薄い水着で接客してましたからそういう意図も持ってるんだろうなぁ、とは思っていましたけど……まぁ、クローコさんの周囲にはだいたいクマンコさんの子供さん達が
「ねーちゃん、あっち行こうぜ!」
「お姉ちゃん、向こうに行こうよ」
 そんなことをいいながら常に一緒に行動していたもんですから
「なんだ兄妹連れか……」
 ってな感じで敬遠されまくっていましたからね……
「こうなったら、今日の最後の休みでめいっぱいアピールするし!」
 クローコさんはそう言っているんですけど、その背後には4号店がティーケー海岸最終日ってことで、クマンコさんの子供達が全員総出で集まっているんですよね……どう見てもクローコさんと一緒に泳ぎに行く気満々です。
(……この状態で泳ぎに行ったら、今度は子供連れと思われて更に声をかけてもらえないだろうな……)
 と、思った僕ですけど、もちろん言葉には出しませんでした。
 
 と、まぁ、そんなわけで大きな問題もなかったってことで、交代はスムーズに行われました。
 クマンコさんの子供達を引き連れて海に向かって駆け出していったクローコさんを見送った僕は、視線をエレに向けました。
 今日から、エレが店長を務めています3号店がこのティーケー海岸出店の担当です。
 出店は、エレと、3号店の入っている屋敷の中でキュアキュア5シアターのスタッフとして働いている魔法使い達と、衣類販売を行っているテトテ集落の人達が助っ人として参加する予定になっていまして、すでに出店の中であれこれ作業を開始なさっています。
 ちなみに、深夜帯の営業はエレが担当する予定になっているとのことで……
「え? まさかエレ、この1週間毎日24時間働き続けるつもりかい?」
「まさかも何も、そのつもりですが?」
 僕の言葉に『それが何か?』とばかりに首をひねるエレ。
 確かに、エレは木人形ですので問題ないといえばないのですが、周囲のお店から
「おいおい、あの出店は店員を休ませないのか?」
 って言われかねませんので、パラナミオに骨人間(スケルトン)を召喚してもらうつもりです。
「私的には問題ないのですが、そう言うものなのですか?」
「うん、そういうものなんだ。そういうことで察してくれるかい?」
「はい、わかりました」
 と、いうわけで、エレがこの案件を割とあっさり受け入れてくれたことで安堵しきりだった次第です。
 ちなみに、エレなりに夏の海岸の出店の担当をするということを研究してくれたらしく、いつもの長袖のコンビニおもてなしの制服にゴスロリの長スカート姿ではなく、白地のビキニ姿で現れたのには、ちょっとびっくりした次第です。
 クールビューティーかつ、割とスタイルがいいもんですから、結構周囲から注目の的になっていまして……クローコさんが戻って来たら歯ぎしりしながら地団駄を踏む姿が目に浮かびます。

 まぁ、そんなわけで、エレ達に営業を無事引き継いだ僕はコンビニおもてなし本店へと戻りました。

◇◇

 今日は休日ですが、ガタコンベの街中は多くの人で賑わっています。

 いつもの休日ですと、人通りはすごく減るガタコンベです。
 みなさん家でのんびりなさるか定期魔道船を利用してブラコンベかナカンコンベに遊びに行くか、ララコンベに温泉に入りに行かれていますからね。

 で、街中が人で賑わっているのには当然理由があります。
 明日から始まるブラコンベ辺境都市連合による夏祭りのために他なりません。
 中央広場を中心にして展開される出店の区割りは各都市の商店街組合のみんなの間ですでに決定していまして、それぞれの都市のそれぞれの参加予定者達に伝えられています。
 で、その参加予定者達が続々と中央広場に集まって、出店の準備を始めているわけです。

 以前でしたら、数日かけて荷馬車でやってきていた皆さんですが、今はコンビニおもてなしが運行しています定期魔道船がありますからね。
 定期魔導船がガタコンベに到着する度に、多くの荷馬車が姿を現しては中央広場の方へと移動しています。
 荷馬車は、元猿人盗賊団で、今はガタコンベの衛兵として働いている猿人達がチェックしてくれています。元はセーテンの部下として山賊をしていた彼らですけど、今ではガタコンベの治安維持に欠かせない存在になっている次第です。
 そのボスだったセーテンも、イエロとのコンビで魔獣を狩ってくれていて、コンビニおもてなしに欠かせない人材になっているわけですし、その山賊団の中で食事係をしていた猿人四人娘はコンビニおもてなし食堂エンテン亭の調理人ですからね。
 ホント、変われば変わるもんだなぁ、と、思わずしみじみしてしまった僕でした。

 そんな中、僕も中央広場へ向かって移動を開始しました。
 今日は、パラナミオ・リョータ・アルト・ムツキの子供達4人も連れて行っています。
「パパ、準備頑張りましょう!」
「リョータも頑張ります!」
「アルトも頑張りますわ」
「ムツキもやる時はやるにゃしぃ!」
 みんなやる気満々で僕の後についてきてくれていました。
 んで、僕達コンビニおもてなしが割り当てられているスペースへと向かっていったのですが、
「あら、店長さん、おはようございます」
 そこには魔王ビナスさんの姿がありました。
 この度魔王ビナスさんが副店長に就任したこともありまして、今日は一緒に準備をしましょうとお声をかけていたんですよね。

 で

 その魔王ビナスさんの周囲を見回して、僕は思わず苦笑してしまいました。
 ……いえね……魔王ビナスさんの周囲には、すでに出店の準備がばっちり整っていたんです。
「ティーケー海岸出店と同じ感じで、とおっしゃられていましたので、そのようにしつらえておきましたわ。何か変更すべき点がありましたらご指摘くださいな」
 着物姿でたすき掛けしている魔王ビナスさんはそう言ってにっこり微笑んでいます。
 そう言われて、僕は出店の中を見回してみたのですが……完璧です。
 えぇ、何も言うことがない状態に出来上がっていたのです。
「……そうですね、とりあえずこれで問題ないかと」
「そうですか、それはよかったですわ」
 魔王ビナスさんは、そう言ってにっこり微笑みました。

◇◇

 しばらく雑談した後、魔王ビナスさんは、
「では、私はこれで……」
 と、自宅に戻っていかれました。

 で、残った僕達なのですが……すでに品物も陳列されていますので、ホントにすることが無くなってしまったんですよね。
「じゃあ、せっかくだからみんなで散歩でもしようか」
「はい! それがいいです!」
 僕の提案に、パラナミオをはじめとしたみんなが笑顔で挙手してくれました。

 と、言うわけで、僕達は夏祭りの準備が進んでいるガタコンベの街中を散歩することにしました。

 そういえば、みんなでこんなにのんびりするのはひさしぶりです。
 スアも呼ぼうかと思ったのですが、今スアは祭りで販売するための魔法薬や魔石の精製を行っていますので、邪魔をしてはいけないかな、と、思いまして、声をかけるのは辞めておきました。
 まぁ、スアの事ですから、一段落したら転移して合流してくることでしょう。
 そんな事を思いながら街道の角を曲がっていきました。

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