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 ちょっとどきりとした。旅行先で会うなど初めてのことであるし、おまけに婚約者と同じ屋敷で一週間を過ごすのだ。それは緊張して当然だろう。
 いえ、大丈夫。マリーやロン様もいるのだし、フレンも一緒。きっと上手くやれるわ。
 グレイスは自分に言い聞かせて、玄関へ向かう。使用人を従えて、ダージルが入ってきた。
「やぁ、グレイス。お招きありがとう」
 もう暑いのだ、ダージルの服も軽装になっていた。それでもかっちりとした服に変わりはない。ぱりっとしたシャツにベストを合わせ、タイもしっかりついている。伯爵家にふさわしい姿だ。
「少々手狭かと存じますが、どうぞおくつろぎくださいませ」
 グレイスはもう一度、スカートを持ってお辞儀をした。今回はもう少し深くなった。
「いや、別荘だろう。じゅうぶん立派なものだ。場所も緑が溢れていてとても良いね。リモーネの散歩ができたらさぞかし、……あ。ああ、すまない」
 リモーネ。ダージルの飼い犬。グレイスはちょっとひやっとしてしまった。
 グレイスが犬に怯える様子を見たのだ、おそらく連れてきはしないと思ってはいたが、わからない。そこが心配だったのだけど、どうも杞憂に終わったようだ。そんな気配はない。
「いいえ。来年はリモーネさんも是非ご一緒に」
「そうかい?」
 とりあえず今回は一緒に過ごすことにはならないのだ。グレイスはにこっと笑って言っておいた。ダージルも安心したような笑みを浮かべてくれる。
 今日は初日なのだ、それなりの長距離を移動したので少しくたびれてもいる。屋敷の中でくつろぐことになった。二時間もすれば夕食になることも手伝って。
 グレイス、マリー、そしてダージルとロン。
 一応誕生日パーティーで同じ場所に居たとはいえ、しっかりと顔を合わせるのは初めて。はじめましての挨拶から、マリーたちの家のことについてまで、話題は尽きなかった。

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