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 ダージルのこと。これから知っていくのだろう。
 それは良いけれど、その先にはなにがあるのだろうか。総合的に好ましく思うことはできるだろうか。グレイスにとってはそれが一番心配なことだった。
 そしてもうひとつ。なんだか寂しいこともあった。
 ダージルと近付いていくたび。フレンが遠くなってしまう気がしたのだ。
 そんなことは錯覚だ。ダージルと結婚する日が訪れても、同じ屋敷で暮らすことになっても、フレンはいなくなったりしないのだから。
 従者としてずっと一緒にいてくれるのだから。距離が遠くなるなんてあり得ない。
 でも。一番身近な男性。その関係はなくなってしまうのかも……しれない。夫になる男性が一番近くになって当然なのだから。
 それが寂しくて、また、はっきり言ってしまうのが怖いと思う。
「……少し、くたびれたわ」
 少しためらった。こんなことをするのは。
 でも今ばかりは安心を取りたい気持ちが勝った。グレイスは小さな声でそう言い、そっと体を傾けた。隣に座るフレンの体に触れる。肩にこつりと頭を預けた。
 それは幼い頃は良くしていた仕草で、どこかにお出掛けとなれば、疲れ切った帰り道はこうしてフレンに寄りかかってすやすや眠ってしまったものだ。
 今、何故か。それをしたくなったのだ。
 フレンに触れれば心臓は騒いでしまうし、今だってそれがないわけではないけれど。触れることで安心したかった。
「……お嬢様」
 フレンの声が上から聞こえる。触れ合っているのだ。体から声が発されているのが直接伝わってきた。
 その声に含まれているのは知っている。
 戸惑い、だ。ここしばらく、グレイスがこんなふうにしてくることはなかったからだろうか。目を閉じながらグレイスはそう考えた。
 それともほかの。期待しそうになってしまって、内心首を振った。そんな期待はあとから自分を苦しくさせるだけだ。
 ただ、寄りかかったフレンの肩のあたたかさ、そしてひとの体の感触に集中する。どきどきしてはしまうけれど、同時に心地良いものなのだ。
 目を閉じて、疲れから本当に眠りに落ちそうになったとき。
 膝の上に重ねていたグレイスの手になにかが触れた。
 それはよく知っている、この馬車に乗るときも触れてくれたフレンの手だ。そっとグレイスの手を包み込んで握ってくれる。
 その意味はグレイスにはわからなかった。ただ、胸がどきどきするのが強くなった。
 だって、今、手を握ってくれる理由などないのだ。
 強いて言えば、グレイスが気疲れしたから慰めるためとかそういうものはあるかもしれないけれど、それにしたって握るまでしなくて良いだろう。
 それでもグレイスは、振りだけではなく本当に疲れ切っていたのであり。
 フレンの肩に寄りかかり、手をしっかり包まれたまま眠りに落ちてしまっていた。

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