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 ダージルは成人してしばらくするので、今は領主である父から仕事や社交を習っているところなのだとか、だからこそアフレイド家に入り婿をしたとしても、それほど仕事に苦労はしないだろうとか話していた。自信の溢れた内容で言い方であったけれど、グレイスは思った。
 この方はプライドが高いのかしら。それとも自信を疑わないタイプなのかしら。
 高圧的ではないけれど、少々酔ったような物言いだわ、と感じたのである。
 貴族の息子としてはなにもおかしなことではないのだろうけれど、グレイスにとって身近で特別な男性、フレンのことを考えてしまっては、あまり好印象ではなかった。
 何故ならフレンはいつでも丁寧で、腰が低く、優しい物言いをするからである。そういう相手を好きになったのだから、そうでない、ある意味真逆ともいえるダージルのことは違和感を覚えても仕方がなかったかもしれない。
「ああ、あまり部屋にこもっているのもつまらないだろうね。なにしろ良い天気だ。庭でも散策するのはどうかい」
 提案されて、グレイスはほっとした。ちょっと空気に疲れていたところだったのだ。
「そうですね。お邪魔してみたいです」
 グレイスが良い返事をしたからかダージルはにこりと微笑み、立ち上がった。グレイスの近くまで来て手を差し出してくれる。
「さぁ、お手をどうぞ」
 グレイスは一瞬、戸惑った。白手袋をしたダージルの手。取るのがためらわれたのだ。男性に手を伸べられるなど慣れているのに。
 それは勿論フレンに、だ。でもこれからはフレンではなく、ダージルが手を伸べてくれることのほうが多くなるのかもしれない。それを実感してしまって、ずしりと心が重くなった。
 おまけにフレンは今、ソファの傍らに控えてくれていたのだ。これを見てどう思っただろう。
 けれど取らないわけにはいかない。グレイスは意識して笑みを浮かべて「ありがとうございます」とそっと手を乗せた。
 さらりとした手袋の感触が伝わってくる。普段触れる手はとても心地良く、グレイスの胸を高鳴らせるものなのに、今のものはかえって心を落ち込ませてしまうようなものだったけれど。

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