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スアと、スアのお弟子さんと、またもポルテントチップ商会

 スアが転移ドアを召喚し、それを開けると見知らぬ街並みが広がっていました。
「……トツノコンベ……つながった、よ」
 スアはそう言うとその中へ入って行こうとしました。
「ちょ、ちょっと待ってくださいスア様」
 それをゴルアが慌てた様子で呼び止めました。
「……何?」
「あ、あの、辺境駐屯地の部下達も一緒に連れて行きたいのですが……万が一ということがあってもいけませんので」
 ゴルアはそう言いましたが……僕的にはスアが行く時点で万が一も何もないと思うわけなんですけど、
「……ん、わかった」
 スアはそう言うと、転移ドアをもう一つ召喚しました。
 で、その扉を開くと、その向こうに辺境駐屯地の光景が広がっていたのです……が、
 そのドアの向こうの辺境駐屯地の面々は、

 ある者は下着姿で木陰で寝そべり、
 ある者は水の入ったたらいに足をつっこみ、
 またある者はひんやりしている鎧を抱きしめたまま居眠りを……と、隊長・副隊長の二人がいないのをいいことにだらけきった痴態をさらしていたのです。

 そんな一同を見回したゴルアですが……

 ぶちっ

「貴様らぁ!!!!!! 私とメルアの留守中も哨戒任務を怠るでないとあれほど厳命しておいたであろうがぁ!!!!」
 ゴルアは、真っ赤な顔をして怒鳴り声をあげながら転移ドアをくぐり、辺境駐屯地内へ駆け込んでいきました。
 ゴルアのいきなりの帰還に、完全に虚を突かれた格好となってしまった辺境駐屯地の隊員達は
「え? た、隊長!?」
「な、なんでもうお帰りで!?」
「ちょ、ちょっと早すぎませんか?」
「いや~ん、まいっちんぐ」
 皆、大慌てしながら右往左往していました。

 ……で、およそ10分後
 大慌てで鎧を着て集合した隊員達を引き連れたゴルア達と一緒に、スアと僕は改めて辺境都市トツノコンベへと移動していきました。
 ゴルアは、すぐにトツノコンベの衛兵詰所へ出向き、事の次第を伝えました。
 すると、それを聞いたトツノコンベの衛兵長は、
「た、確かに最近ポルテントチップ商会って商会が出来ましたけど……ま、まさか指名手配の名前のまま堂々と営業を開始していたなんて……」
 と、絶句していました。

 これは憶測ですけど……ポルテントチーネは、偽名を使ったってどうせいつかはばれるだろうから、堂々と以前の名前で商売を行って、ばれるまでの間に儲けれるだけ儲けようって思っているのかもしれませんね……まさか同じ同じ名前は使ってないだろうと思われることを予期した上で……

 で、トツノコンベの衛兵とゴルア達辺境駐屯地が合同でポルテントチップ商会の関係者を一網打尽にすることになりまして、トツノコンベの衛兵達が早速出発の準備を整え、衛兵詰所の前に集合しました。
 その光景に、街の人々が
「なんだなんだ?」
「何か事件か?」
 と、物珍しそうに集まってきていました。

 ……まずいですね。
 この中に、ポルテントチップ商会の関係者がいないとも限りません。
 早くポルテントチップ商会が店を構えているという商店街の端へ向かわないと……
 僕とスアは、そんなことを考えていたのですが……

 トツノコンベの衛兵詰め所前に集合している辺境駐屯地の隊員達を前にしたゴルアとメルアは、
「貴様らぁ! 先日の魔獣討伐で多少マシになったと思っていたのに、先ほどの体たらくはなんだ!」
「まったく、なってないわよ!」
 と、いきなり声を張り上げて大説教を始めてしまいました。
 辺境駐屯地の隊員達は神妙な面持ちでその言葉を聞いています。

 ……が

 トツノコンベの衛兵達は
「あ、あの~……早くいかないと……」
「逃げられてしまうのでは……」
 と、一様に困惑した表情を浮かべています。
 
 当然、僕とスアも同様です。
「……早くしないと、逃げられたらどうする、の」
 スアは、イライラした様子でそう言うと、魔法樹の杖を取り出し、それを一振りしました。
 すると、魔法の絨毯が出現しました。
 僕とスアは、それに飛び乗りました。
 そして僕は
「ゴルア、説教がこれ以上長引くようなら、僕達とトツノコンベの衛兵の皆さんで先に向かうけど……」
 そう言いました。
 すると、ゴルアは大慌てしながら
「あぁ!? す、すいません! わ、私としたことが、つい興奮してしまって……よ、よしみんな出撃だ!」
「「「はい!」」」
 ようやく出発の合図を出したゴルア。
 その声を合図に、辺境駐屯地の隊員の皆さんも、一斉に返事を返しつつ駆け出しました。
 
 こうして、辺境駐屯地とトツノコンベの衛兵部隊が一斉にポルテントチップ商会の建物がある商店街のはずれに向かって移動していき、その建物を取り囲んでいったのですが……

 次の瞬間

 その建物がいきなり巨大な城塞になってしまったんです。
 石造りのその城塞には、どこにも出入り口がありません。
 その光景に、ゴルア辺境駐屯地のみんなや、トツノコンベの衛兵のみんなは困惑した表情を浮かべながらその周囲を取り囲んでいました。
 スアは、魔法の絨毯を一度上空高くへと舞い上がらせました。
 おそらく、上空から侵入出来ないかどうか確認したのでしょう。
 しかし、残念ながらその城塞は、上部も石で覆われていまして侵入出来そうな場所がどこにもありませんでした。
「……到着が遅くなったから……準備されちゃった、ね」
 スアは、そう言うと不満そうに頬をふくらませました。

 確かに、このトツノコンベに到着してすぐに駆けつけていれば、こんな準備は出来なかったかもしれません。

「しかしスア……あの城壁はなんなんだい? いきなり出現したけど」
「……おそらく……屋敷魔人、ね」
「屋敷魔人?」

 スアの説明によりますと……
 この屋敷魔人といのは、一度自分が触れたことのある建物に自らの体を変化させることが出来る魔人だそうでして、ただでさえ存在が希少な魔人の中でもさらに希少な存在なんだそうです。

 ちなみに、コンビニおもてなし5号店のジナバレアも魔人らしいんですよね……確か地下迷宮制作魔人とか言ったっけ。

「じゃあ、あの建物は人……というか、その魔人が変化したものなのかい?」
「……そうね……反応的に間違いない、わ」
 そう言って頷いたスアなのですが、城塞の周囲に集まっている野次馬の中に何かを見つけたらしく、そちらへ向けて絨毯を移動させていきました。
 そして、ある女性達の集団の上で魔法の絨毯を停止させたのですが……気のせいか、その女性達が来ていたのって、着物だったような気がしないでもなかったんだけど……ちょうど魔法の絨毯が真上のため、女性達の姿が見えないんですよね。
 そんな中、スアが魔法の絨毯の前から顔を覗かせると、その下から、
「す、スア師匠!」
 って声が絨毯の下から聞こえてきました。
 あぁ、あれですね、スアが思念波で話をしたっていうお弟子さんですね。
 そう納得した僕の前で、スアはそのお弟子さんと会話を続けていました。
「……バテア、あそこ? ポルテントチーネは」
「え、あ、はい。あそこです。あの中に籠城してるようでして……しかも、今、ザ・ワールドまで発動させてるんですよ」
「……そう、わかった」
 スアはそう言うと、魔宝樹の杖を取り出しそれを城塞に向けました。
 よく見ると、いつの間にか城塞の一部が開いていて、そこにゴルア達が入ろうとしているようです。
「……うざい」
 スアが、そう言ったのと同時に……

 城塞が、まるで花火のように砕け散りました……一瞬で……

 スアは城壁の周囲に防御壁を展開していまして、破片が周囲に飛ばないように、それと、ポルテントチップ商会の連中が逃げ出さないように、と、両方に配慮しているようです。
 ちなみに、屋敷魔人の中に入りかけていたゴルア達ですが、スアが転移魔法で防御壁の外に移動させていました。
 で、防御壁の中はしばらく粉塵で視界が悪かったんですけど、視界がクリアになると先ほどまで城塞があったあたりに、ポルテントチップ商会の連中が気絶して倒れていました。

◇◇

 こうして、ゴルア達は気絶しているポルテントチップ商会の連中を一網打尽に出来ました。
 ……ですが、ポルテントチーネだけは地下通路を使って逃走した後だったそうです。
「……ゴルアが、説教をしてなければ……」
 スアは、頬をぷぅっと膨らませながらゴルアを射るような視線で見つめました。
 殺気を感じたのか、ゴルアは途端にガタガタ震えだしていましたね。

 そんな中、スアのお弟子さん……確かバテアさんとか言ってたかな、その人達が、ハムスターみたいな冒険者の人と話していたのですが、
「ジュ、なんでも「まさか同じ名前を名乗ってはいないだろうと思われて、逆に見つかりにくいはず」とか思っていたらしいジュ」
 と、辺境駐屯地の皆が、ポルテントチップ商会の連中から事情聴取した内容のことを話していました。
 おそらくこれって、ポルテントチーネがポルテントチップ商会を堂々と名乗っていた理由のことでしょうね。
「やっぱ、思ったとおりだったってことか」
 僕がそう言うと、スアは
「……ポルテントチーネなら、そう考えると思ってた、わ」
 そう言いながら頷いていました。

 で、まぁ、これで僕達に出来ることは終わりました。
 僕とスアが一足先に帰ろうとするとバテアさんから、
「あぁ、師匠! よかったらお酒でも飲んで行きませんか? 最近アタシの店で居酒屋もやってるんですよ」
 そう声をかけられました。
「……旦那様、どうする?」
 スアがそう尋ねて来ました。
「う~ん、ありがたいんだけど……今日はまだ決算処理が残ってるから」
 僕がそう言うと、スアは
「……せっかくだけど、また」
 バテアさんに向かってそう言うと、魔法の絨毯を転移ドアの方へ向けて出発させました。
 バテアさん達が手を振って見送ってくれたのですが……気のせいか、バテアさんの隣に立っていた黄色い着物の女性って、僕と同じ日本人のような気がしないでもなかったのですが……
 それに、この世界で酒を飲める店は普通「酒場」呼称のはずなのですが、バテアさんが「居酒屋」と言っていたのも少し気になっています。
 なので、また時間のあるときに、スアと一緒に来てみたいと思います。

 こうして僕達は、ガタコンベへと戻っていきました。

しおり