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「でも、気持ちはわかるわ。グレイス、一度に色々なことが起こったものね」
 ふと、マリーの目が優しくなる。グレイスの目を覗き込んできた。グレイスの喉が、くっと鳴った。優しいのだ、マリーは。こうして気遣うようなことを言ってくれる。
「……言い訳にはならないかもしれないけれど」
 じゅうぶん反省したので、グレイスはそう前置きした。
「婚約とか、その発表とか、あとは婚約の儀、とか」
 ひとつずつ挙げていく。全部、グレイスの心を沈めていったことだ。楽しいことであったはずがない。そんなことが立て続けに起きれば。グレイスの気持ちを、マリーは肯定してくれた。
「それは息が詰まるわね」
 そう言われて、もう一度喉が鳴りそうな気持ちになって、でも自分が悪かったと言おうとしたのだけど、その前にマリーが言った。
「私も同じような気持ちになったことがあるわ」
 それは初めて聞くことだったのでグレイスは驚いた。顔をあげてマリーの目を見る。
 グレイスに見つめられて、マリーはちょっと困ったように笑った。
「私も結婚に至るまでには色々あったもの。楽しいばかりじゃなかったわ」
 そう、マリーは既に嫁いでいるのだ。同じ貴族の息子へと。それも比較的最近のこと。マリーが十六になってしばらくしてからのことなので、約二年である。
 たった、二年前。マリーも『色々あった』のだ。
 グレイスは黙ってしまう。訊いていいものかと思ってしまって。けれどグレイスの言葉を待つことなく、マリーから言ってくれた。
「私はロン様と小さい頃から婚約を交わしていたから、まだショックが少なかったかもしれないけどね。それでもよ」
 マリーは今では夫になった『ロン』の名を挙げた。今では仲の良い夫婦だと聞く。
 けれど幼い頃から婚約を交わし、結婚が前提にあったとしても一応、親が決めた結婚なのだ。
「ロン様のことを好くようになれたのは、単に運が良かっただけ、かもしれないの」
 確かに政略結婚ではあったのだけど、幼い頃から心構えをしていたのが良かったのか。
 マリーは彼のことを、どの程度かはわからないが確かに愛しているのだといつも感じていた。
「だから、こんなに急に、怒涛のように決まってしまったグレイスは、私と比べ物にならないくらい戸惑ってしまってもおかしくないわ」
 優しい言葉をかけられて、今度、違う意味でグレイスの息が詰まった。熱いものが喉の、目の奥に込み上げそうになる。
 そう、ショックだったのだ。
 いきなり婚約者ができるという事態になったのもそうであるし、その話がどんどん進んでしまったのも。
 それに、結婚の話が持ち上がったことで、抱えていたほのかな恋心は行き場を失ってしまって、グレイスの中で嫌な具合に留まるしかなかったのだ。その気持ちをどうしたらいいのかだって、まだわからない。
「そう、ね。ショック……だったのかも」

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