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「どうぞ」
 かたりと小さな音を立てて、ソーサーがローテーブルに置かれる。グレイスは「ありがとう」とそれを手に取った。
 ほっこりとあたたかな温度が伝わってくる。それに、一連の騒動以来、水分を取っていなかったのだから喉も渇いていた。
 熱い紅茶に息を吹きかけて、火傷をしないように気をつけつつ飲んでいく。喉が渇いていたせいで、すぐに飲み終えてしまった。
 フレンのほうをちらりと見ると、フレンは困ったように、でも笑みを浮かべてくれる。
「お代わりを」
「……ありがとう」
 フレンにカップを渡すと、すぐにお代わりの紅茶が注がれた。それが改めてソーサーに乗る。お代わりを半分ほど飲んで、喉も落ちついた。
 ほう、と思わず息をついたグレイス。それでグレイスが少し落ちついたのを悟ったのだろう。
「まったく、久しぶりに『お転婆』をなさったものですね」
 フレンが呆れたような声で話を切り出した。
 フレンはグレイスの従者で、使用人ではある。しかし教育係でもあるのだ。
 よって、こういうときにはお説教をする権限を有している。母の亡いグレイスは半ばフレンに育てられたようでもあるので、お叱りを受けるのが初めてであろうはずもない。
「ごめんなさい」
 全面的に自分が悪いことなどもう散々身に染みていたので、グレイスは素直に謝った。けれど謝ればすぐに許してもらえることであるものか。
「領主様が色々とお叱りをされましたから、私から同じことは申しませんが。もう少し、ご自分を大切になさってくださいませ」
「……ええ」
 フレンが言ったのはそれだけだった。グレイスがすっかり反省したのは伝わったらしい。
 それでも謝るつもりで、グレイスは疑問点を口に出した。
「あの……フレンは今日、お休み、だったのよね?」
「それをご存知でたくらまれたのだと存じますが」
 そろそろと言ったことにはちょっと睨まれた。グレイスの企みなどお見通しであったわけだ。
「……ええ、……はい。ごめん、なさい……私のために、来て、くれたのでしょう……」
 休みを奪ってしまったことを謝る。フレンはひとつ息をついた。
「そうですね。領主様に代休をお願いせねば」
 確かに、このような事態で呼び出されることになったのだから、フレンは責められるどころか、むしろ被害をこうむっているといえた。父とて、あっさりと代休許可を出すだろう。
 グレイスはもう一度謝ることになる。しかし、まだお叱りは終わらなかった。
「もうひとつ。お嬢様に反省していただきたい点がございます」

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