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 話は一旦、区切りがついたようだ。けれどグレイスが安心できるのはまだだった。
「グレイス。先日十六になっただろう。もう大人といっても良いのだぞ」
「……はい」
 話の矛先がどこへ行くのか。グレイスはそれで察した。良い大人としてなんということを、である。
 そしてそのとおりのことをくどくど責められた。グレイスは首を縮めて聞くしかない。
 確かにその点に関しては、少々軽率だったといえる。もう、子供の悪戯で済むことではなかったのだ。大人として、ひとに……フレンや自警組織、そして勿論、父に心配をかけ、手をわずらわせてはいけなかったのに。
 グレイスの心が沈んでいく。婚約の話から誕生日パーティーでの婚約発表。
 それらが怒涛のように起こって、気持ちがくさくさしていたのが原因だ。気を晴らしたかった。
 けれどだからといって、して良いことにはなりはしない。見つからなければ良い、などというのは軽すぎる観測だったのだ。今日、遭った事件でグレイスはやっと思い知った。
 街は楽しくて自由なだけの場所ではない。今までこのようなことがなかったのは、単に運が良かっただけなのだ。
 それをやっと思い知った。危険な目に遭ってから理解するなど、馬鹿だったと思う。
「……申し訳ございません」
 心から反省し、涙もうっすら浮かんだ。それを見て、父はもうひとつため息をついて、そこでおしまいにしてくれた。グレイスが素直に反省したのは伝わったのだろう。
「これでおしまいにしておく。だがお前に処分なしとはいかない」
 それは当然のことだ。ここまでの騒ぎを起こしておいて。
「来週の外出は取り止め。そして今月中は謹慎だ。たとえ親戚の屋敷でも許可は出さん」
 ただ、父はグレイスに甘いほうである。よって、この程度の『処分』で許してくれることになった。グレイスとしては、だいぶほっとした。
「かしこまりました」
 謹んでそれを受け、グレイスはやっと解放された。けれどまだおしまいではない。肝心なことが残っている。
 すなわち。……助けにきてくれたフレンからのお叱りが、である。

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