①
裂かれたシャツの上にフレンの上着を着せられて、待機していたらしき馬車に乗せられた。そして屋敷へと連れ帰られたのである。
なにが起こるのかはわかっていた。勿論、父の叱責である。
それでも服や身がこんな状態だ、一旦部屋に返された。フレンがメイドにグレイスを引き渡す。
あとはメイドたちの仕事。バスルームへ押し込まれて、服を脱がされて、湯をかけられた。
街では普通に歩いていただけとはいえ、石壁の穴をくぐったときに地面を這ったので、土が少しくっついていた。まずは汚れを落とすということだ。
「まったく、お嬢様……大胆なことをなさって……」
中心になってくれている、メイドのリリス。ちょっと呆れたようにグレイスにシャワーの湯をかけていく。
リリスはじめ、メイドたちにはグレイスが良からぬ男たちに捕まるところだったということは聞かされていないだろう。単に『抜け出して街へ行った』としか把握していないようだった。
服だって、フレンが「引っかけて破ってしまったそうです」と言い訳してくれたので、それを信じられた模様。
「……ごめんなさい……」
あたたかい湯は気持ち良かった。グレイスは心がほどけていくのを感じながら、謝った。
「いつぶりでしょうね。お嬢様の『お転婆』は」
それは今回と同じように、屋敷を抜け出して街へ行ったことを示していた。確かに以前にもあって、そしてそのときもフレン、メイド、そして父に呆れられたものだ。
いや、父からは呆れるより怒りであったが。娘が危険を冒して街などに行けば当たり前であろうが。
でもグレイスが『お転婆』をしたのは一度や二度ではない。途中で捕まってしまった幼い頃をカウントすれば、一体何回あるか。あまり良くはないことだが、メイドたちも「またか」という反応であった。
グレイスの気持ちも少しは察してくれているのだと思う。
男爵家のお嬢様として、自由に遊びに行くこともできない身。生まれたときからそういうものだとはいえ、息が詰まることもあるだろうと。
おまけに婚約に関する、連日のこれである。許してくれるはずはないが、「仕方ない」とは思われているらしい。
もっとも、今回ほど危険な目に遭ったと知れば、「もうなさらないでください」と泣かれたかもしれないが。
心配をかけてしまった。グレイスは改めて反省した。
体も髪も綺麗にされて、浴槽で少しお湯に浸かって。普段通りの服を着せられた。
キナリ色のお気に入りのワンピース。普段の自分の格好。
特になにも思っていなかった、いや、かわいらしくて好きだと思っていたのに、あの服のあとではちょっと窮屈な気持ちが浮かんでくる。そんなことを言える立場ではないのだが。
さて、このあとは叱責が待っている。父から直々のお叱りだ。
メイドに付き添われて、グレイスは憂鬱な気持ちで父の部屋へ向かったのだった。