③
すぐに同じバッジの男がわらわらとやってくる。フレンが蹴りを叩き込んで地面に沈めた、もう二人の男を同じように捕らえた。
「グリーティア様! こちらですべてでしょうか!」
最初に来た男が、びしりと敬礼をして言った。どうやらフレンに向かって言ったようだ。
それでグレイスは知る。先程の笛は、この自警組織の人々を呼び寄せるものだったのだ。
「ああ。……連れていけ。処分はおいおい」
「かしこまりました!」
その言葉のときだけ、フレンはまた冷たい目と声に戻って、告げた。
それですべておしまいになった。グレイスに悪事を働いていた男たちは引きずられていった。自警組織の集団も引き上げていく。残ったのは。
「……お嬢様。無事、ですか」
声をかけられて、グレイスは再びはっとした。
フレンが話しかけてくれている。やっと認識して、グレイスはフレンをおそるおそる見た。
やはり、先程声をかけてくれたときと同じ。グレイスに普段向けてくれる、穏やかな口調と、そして心配げではあるもののずっと落ちついた目をしている。
……助かったのだ。
グレイスの体から一気に力が抜けた。同時にがくがくと体が震えてくる。
……助かったのだ。もう一度、今度は自分に言い聞かせた。
けれどそのあとのことに、グレイスの意識は一気に現実に引き戻された。
「……お嬢様」
ぐっとフレンの腕に力がこもる。グレイスの体を強く引き寄せてきた。
あっと思ったときには、支えられるのではなく、フレンの腕の中にしっかり抱き込まれてしまっていた。
あたたかな体温が伝わってくる。とくとくと速い鼓動も。
なに、これは、いったい。
ぼんやりと、グレイスは追いつかない思考の中で呟いた。
「良かった……良かった、です……ご無事で」
フレンの声は震えていた。涙声にも近い。
ただ、グレイスはそれをはっきり認識することはなかった。
彼の腕に抱かれている。そればかりが大きく心と体に迫ってくる。
どく、どく、と違う意味で心臓が騒ぎだす。熱い血を体中に巡らせるように。
そのとおりに、かぁっと体が熱くなった。
そのうち、そっと体は離されてしまった。代わりにフレンの瞳がグレイスを覗き込んでくる。
グレイスはされるがままになるしかなく、翠色をしたそれをぼんやりと見つめ返した。
「帰りましょう」
ふっと、フレンの目が緩む。
その瞳を見て、やっとグレイスにまともな思考が戻ってきたのかもしれない。まだ震えるくちびるを開いて、やっと言葉を押し出した。
「……ごめん、なさい……、フレン」