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25話 借り物の力:悪魔化(3/3)

 俺は、覚悟を決めた。

「コイッ! ヴォルテックス!」

 この瞬間、視界が混濁する。

 すぐに晴れた視界はまた元の俺の悪魔に戻っていた。
しかも、当時の数十倍まで力が満ち溢れている気はする。

 カマエルはめざとく俺の変化を察知したのか、飛び立つ様子がみられる。

「逃すか! ダークスピード!」

 全身を黒い皮膜で覆うと、すべての移動は勝手に景色が俺の視界の後ろに流れていく。
考えるよりも早く、瞬きするほどの切り替えで俺は今駆け抜ける。

 奴はギョッとした顔をさせて、俺を見たに違いない。硬直した顔の筋肉が弛緩する前までに
背中の羽をつかみ根本からもぎ取った。

「グガァー!」

 羽を投げ捨てると、そのまま手刀で手を背中に突き刺す。

「ゴフォッ!」

 吐血したと同時奴も必死なのか、瞬時に俺の背後に回る。風を切る鋭い音は俺の首筋を薄皮一枚切り落とす。そのまま腕をつかみ背負い投げの要領で、つかみ投げた。

 奴は、中途半端な片羽の状態のためか、きりもみしながら地面に着地する。そのまま間髪入れずにダークボルトを乱れ撃った。この状態になると、回数制限が解除された状態だ。轟音は空を穿、地面を切り裂く。耳は痺れ、視界は明滅する。すベてはダークボルトの影の中だ。

 鋭利な形で放ったことで、奴の両腕は肩からこそげ落ちる。

「ギ・ザ・マー! 屑肉にしてやる!」

 はじめめて奴の声を聞いた気がした。それは別に嬉しい知らせでもなく、切ない歌声でもない。
腕が消失したのは、見て明らかだ。ところが、トカゲの尾のように瞬時再生をしやがる。

 天使とはいえ、あの再生の仕方は魔獣そのものだ。

「お前? 天使やめたのか?」

 すると奴はニタリと笑う。

「汚ねぇ笑顔だな」

 ダークスピードを駆使して、再び接近戦に挑む。踏み込んだのは一歩だけなのに、世界がまるで切り取られたかのように奴の背後に回る。驚愕の表情をするなど、表情が豊かな奴だ。このまま下側から顎に向けて掌底を繰り出す。

 それと同時に放つ。

「ダークボルト!」

 首をギリギリでずらして交わす。こんなことが可能なほどの、体技をもつ相手ははじめてだ。
俺はこのまま腕を掲げた状態になると、奴の目が一瞬光ると両目から熱線が照射される。

「チッ!」

 俺の二の腕を貫くともう一方は、鎖骨の上を貫いた。この体勢は不利なため急ぎ後退すると、背後に奴はいた。

――速い!

 奴も負けず劣らずの高速戦闘だ。回避が間に合わず、奴の両目から再び熱線が一直線に向かう。体をひねり急所は避けれた物の、モモと脇腹は損傷した。悪魔の時よりました力でこれだ。相当奴は強い。

 対峙した状態から、再び接近戦となる。

 右側から手刀が風をきり、視界の中央が中指の先端から小指の先にずらすと、こめかみスレスレを切り裂く。そのまま勢いよく右手で腕をつかむと、左手の掌底を肘関節の裏側に当て折る。よからぬ方向へ曲がる腕のまま、すかさず熱線を照射してきた。

 肩の側面に被弾して焼かれてしまう。痛みは切り離して、即座に詰め寄る。ところが奴も敏感に察知し同時に後退した。それにより微妙な距離を保つ。そのまま真正面で目から照射されたと同時に、仁王立ちをとる。こんな馬鹿げたチャンスはなく、迷わずダークボルトを放つ。すると視界が急転して俺にダークボルトが迫る。

「チッ!」

 舌打ちをすると、再度ダークボルトを放ち相殺するはずが余波により無防備な状態をさらけ出してしまう。

「クソが!」

 まんまと奴の罠にはまり正面から手刀で右胸をえぐられる。

「グハッ!」

 俺は吐血と同時に奴の差し込んだ腕をつかみ放った。

「ダークボルト!」

 この至近距離からなら上半身を吹き飛ばせる。ところが、左半身を吹き飛ばしたのみでまだ奴は首から上と右半身は健在だった。俺も動けず、奴も動けないまま互いに再生をしていた。そこにリリーのファアリーランスがここぞとばかり降り注ぐ。それだけでなくエルの執行者の剣から、ブラッドレインが降り注ぐ。どちらも回避不能な物だ。

 俺は奴に向けて勝ち誇ったように笑う。お前の負けだと。

 奴は悔しそうにリリーとエルの攻撃を受け入れ、ついに自壊して消滅した。

「レンー!」

 リリーとエルが駆け寄ってくる。エルはあの執行者の剣から召喚した謎の者はすでにおらず、エルの存在感も復帰していた。リリーは疲労が少し激しく見える。それもそうだろう、まさに固定砲台として休まず撃ち続けたわけだら当然だ。

 三人で互いがなんとか無事であることを確認すると、その場に座り込んでしまう。

「今回は危なかった。助かったよ。エル、リリー」

「レンが無事でよかったわ」

「そうか私も役にたったんだな。レンもエルも心配したんだぞ」

「すまない」

「リリーありがとう」

 エルは素直に礼を述べていた。俺の悪魔化はすでに解けていて、まるで力が入らない。しかも顎骨指輪に俺の時を無条件で三十分も自在に使われることになった。俺の意識はそのままなのかはわからない。奴の任意のタミングなのかそれとも何か狙いがあるのかは不明だ。

 ひとまずの危機は脱した物の、現状は何も変わらない。変わらず脱出口はないのだ。

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