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 数秒、その場は無言だった。しかしその沈黙は破られた。くっくっ、と低い笑い声がする。それはうしろにいた男から。そしてその下卑た笑い声はすぐその場に満ちた。
「ほぉ……どうもかわいらしいお顔だと思ったら、女の子だったわけか」
 グレイスの身に、今度は違う恐ろしさが膨れた。少年だと思われていたら、カバンを取り上げられるだけで済んでいたかもしれない。抵抗せずに、僅かなお金しか入っていないカバンなど、さっさと渡してしまえばよかったと、今更であることを思う。
 もう遅かった、けれど。
 今度は違うところへ男の手が伸びた。グレイスの前まで迫り、その生温かい息がグレイスの顔にかかる。煙草の不快な臭いがグレイスの鼻をついた。
 嫌悪感に顔をそむけようとしたけれど、あごを掴まれてしまった。じろじろと顔を舐め回すように見られる。
「どっかのいい家の嬢ちゃんってわけだな。こりゃいい。坊ちゃんよりずっといい」
 男のうしろから、またくっくっと低い笑いがする。その場を嫌な空気で冒していくような声。
 急に、とんでもないところに手が伸びてきた。がばっと上着を広げられる。
 ブチッと嫌な音がして上着のボタンがはじけ飛んでいた。そしてその中のシャツ。がしっと胸部を掴まれた。ほぼ大人の女性の体なのだ。それなりに豊かな胸を有している、ところを。
「いっ……」
 痛い、と言いたかったけれど、声にならなかった。痛みもあるが、こんなところに無遠慮に触られたショックで声が詰まってしまったのだ。
 グレイスの胸を掴んで、男はにたりと笑う。いやらしい笑みだった。
「なかなか上物らしいぜ」
 確かめるように乱暴に揉まれる。鈍い痛みがグレイスを襲った。酷い嫌悪感も同時に。吐き気すら込み上げそうになってくる。

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