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 同行のひとたちはぽんぽんと玉を投げて両手で軽やかに操ったり、らっぱを吹いたりしている。今日はまだ宣伝なのだろうが、これだけでもグレイスの視線を奪うにはじゅうぶんなもので。グレイスはそれに見とれてしまっていた。そして、それはだいぶ無防備なことだったのだ。
 ぽん、と肩になにかが乗った。グレイスはびくっとする。
 それは大きな手だった。振り返ると何人かの男が立っていた。グレイスはひと目で悟った。
 これは、あまり、良くないひとたち。
 警戒心が一気に湧いたけれど、どうももう遅かったよう。グレイスの肩に手をかけた男が口を開いた。
「お前、さっきウチの店の林檎を盗っただろう」
 一瞬、なにを言われているのかわからなかった。『盗る』という単語がよくわからなかったのもある。けれど、こんな口調で責めるように言われて思い至った。
 なにか、盗んだと誤解されたのだ。ひやりと心臓が冷えた。
 そんなことは誤解に決まっている。思い当たることなんてなにもないのだから。
「そんなこと、してな……して、いない」
 つい普段通りの口調でしゃべってしまいそうになり、言いなおした。少年に聞こえただろうか、と思いつつ。
「いいや、確かに見たね」
 声をかけた男のうしろにいた男が続けた。グレイスは黙らされてしまう。
「そのカバンに入れたんだろう」
 指されるけれど、誤解なのだ。この男たちがどうしてそんな誤解をしたのかわからないけれど、と素直なグレイスは思った。実際はただ、いちゃもんをつけられているだけなのだが。
「あくまで盗ってないって言うなら、中身を見せてくれてもいいよな?」
「こっちに来いよ」
 男たちが次々に言う。こんなふうに責められるようなことを言われたことなどグレイスにはない。どうしたらいいのかわからなくなってしまった。
 そしてその様子は男たちを調子づかせたらしい。最初に肩に手を乗せてきた男が手を伸ばした。あっと思う間にグレイスの腕が掴まれてしまう。
 痛い、と言うところだった。握りしめるような強い力だったものだから。しかしそんな痛みに構っているどころではなくなった。男がぐいっと捕まえた腕を引っ張ってくる。
 振り払いたかった。けれど男の力が強すぎて少しもがくことしかできなかったうえに、それ以上に恐ろしくなっていた。
 一体なにをされるというのか。お金でもとられるのか、それともどこかに売り飛ばされたり。
 心臓が一気に冷えてくる。そんなグレイスを見て、男たちは楽し気な、いやらしげでもある表情を浮かべて。旅芸人に見入っていてこんな些細なやりとりには気付かなかったらしい街のひとたちの間から、グレイスを思い切り引っ張って連れて行ってしまったのだった。

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