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 ひとに遭わないように気をつけながら、裏口へ向かう。裏口は使用人が頻繁に出入りするので、昼間は解放されているのを知っていた。
 そこからそろそろ外へ出て、門ではなく、これも敷地内の裏へと向かった。けれどこちらにも簡単ではあるが警備が居る。屋敷に入る者はチェックされてしまうのだ。出ていく者に関しても同じこと。
 よってグレイスは裏の庭の端へ向かった。ここに良いものがあるのを知っている。
 がさがさ、と草をかき分けると、そこにはグレイスの目論見どおりのものがあった。石壁が壊れて穴になっている。
 良かった、まだ見つけられていなければ、修理などもされていないようだ。
 少し穴が小さいような気もしたのだけど、グレイスは身を屈めて穴に頭を突っ込んだ。そろそろ身を通そうとする。
 けれど穴の出っ張りに阻まれてしまった。昔はするっと通れたのに。
 グレイスはちょっと不満を覚える。今よりまだ体が小さかったので、するっと抜けられてしまったのだけど、グレイスの気付かぬうちに体は随分成長していた模様。
 それでも、引っかかっていた部分をできるだけ反対側に寄せて、体をじりじり進めていく。布のカバンが邪魔になりそうだったので、肩と頭から抜いて、先に壁の先へと押し込む。
 そうまでして、ようやく穴を通り抜けることができた。ふぅ、と息をつく。
 こんな、地面を半ば這うようなこと、普段するはずもない。ただの令嬢なら顔をしかめてしまうようなことかもしれないのだけど、グレイスはむしろ楽しくなってしまう。
 立ち上がり、布のカバンを元通り肩にかけた。うーん、と手をあげて伸ばす。
 文字通り、羽根を伸ばすためのこの『お転婆』。
 見回りの者や、通りかかったひとに見つからないとも限らない。さっさと行ってしまうに限る。グレイスは周りを見回し、ちょっと速足でさっさと屋敷から遠ざかっていったのだった。

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