①
外出。買い物。
その夜、グレイスは頭の中にそればかり描いてしまっていた。
いや、昼にフレンと話したようなほのぼのした内容ではない。もう少し良くない……フレンに言わせれば『お転婆』なことである。
クローゼットの中にこっそりしまってあるもののことを思い出す。しばらく使っていなかったけれど、サイズなどに問題はないだろう。つまり、準備としてはそう多くは要らないはず。
そろそろおやすみなさいませとされて、ベッドに入っても色々考えてしまって。しばらくは考え事をしていたけれど、そのうちいてもたってもいられなくなって、がばっと起き上がった。さっき考えていたクローゼットを開ける。
クローゼットの奥の奥。すぐに出せない場所に入れたうえに、厳重に箱に入れて保管してあるもの。久しぶりに取り出すことになった。
箱ごと取り出して、ソファへ持っていって、そこで蓋を開けた。
中に入っていたのはベージュのシャツと焦げ茶の上着。そして黒のズボン。それと、大きめのキャスケット。こんな場所にはまったくそぐわない服たち。
これは、グレイスの秘密の服。そう、『お転婆』をするときの装備品なのだ。
中身を確かめる。最後に着たのはもう数ヵ月前だったけれど、そこから体型はあまり変わっていないので大丈夫そうだ。元々、少し大きめの作りなのだし。
久しぶりにこれを使うことを考えて、グレイスはどきどきしてきた。
こんなこと、良くないことだ。そんなことわかりきっている。
けれど、使いたくなってしまった。ここのところ、息が詰まることばかりであったから。
来週は外出許可が出ていて、フレンとお出掛けができる。それも楽しみだったけれど、待ちきれなくなってしまったのだ。
中身を元通り箱に戻して、クローゼットの元の場所に入れて、グレイスは改めてベッドに潜り込んだ。
『それ』をいつにしようかと考える。ひとの目につかない日や時間がいいに決まっている。
そう、父が外出中とか……仕事が忙しくてこもっているとか……。
プラスして、フレンにも用事がある日でなければいけない。頭の中に自分の予定を思い描いて、今度フレンの用事もこっそり情報取得しなければ、と思う。
グレイスはなんだかわくわくしてきてしまった。良くないことを企んでいるというのに。元々、自分には合っていなかったのだ、と思う。どうにもならないことをうじうじ思い悩んでしまうなんて。
だから、これはグレイスが自分らしく羽を伸ばせるためのこと。
計画を立てているだけで、ちょっとの罪悪感はあれど、久しぶりに胸躍るようなことだった。