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「ありがとうございます、おじさま」
 グレイスは丁寧にお辞儀をした。そんなグレイスを伯父はまじまじと見て、「美人になったものだ」と感心したように言ってくれた。
「髪の色は違うが、顔立ちがアイリスにそっくりだ。懐かしいよ」
 伯父はグレイスの母、アイリスの名前を挙げて褒めてくれる。グレイスもなんだか懐かしいような気持ちを覚えた。
 母のこと。物事つくかつかないかという頃に亡くなってしまったのだから、良くは知らない。
 ただ、つやつやの金髪と、グレイスと同じ翠の瞳を持った外見くらいはぼんやり覚えているし、似ていると言われれば嬉しいに決まっている。
 伯父は当然のように、アイリスが嫁ぐまで一緒に過ごしてきたのだ。一緒に成長してきた兄妹なのだ。アイリスが亡くなったときはさぞ嘆いたことだろう。
「それに今日はいいお話があるそうじゃないか」
 しかし次に出た話題はあまり嬉しくなかった。グレイスの顔はほんの少し、ほんの少しだろうが曇ってしまう。伯父はそれには気付かなかったらしい。上機嫌のようだった。
「遠目に拝見しただけだが素敵なお方だな。伯爵家の方だというではないか」
 そのまま婚約の話になってしまう。流石に親戚なのだから話が通っていたらしい。それでも一応、まだ発表前のこと。それだけで終わってくれた。
「では、またな」と伯父が行ってしまってから。グレイスは小さくため息をついてしまった。
 いい返事をすると受け入れたものの、話題に出されれば楽しくなくなってしまうのは、自分が未熟過ぎる気がしたのだ。こんなことではいけないのに。
「お嬢様、お飲み物はいかがですか?」
 横から声がかかった。フレンだ。飲み物で満ちたグラスを持っている。
 グレイスを落ちつかせるようににこっと笑ってくれた。きっとグレイスの複雑な心境をわかってくれたのだろう。
 大丈夫、フレンは傍にいてくれるのだから。そう誓ってくれたのだから。
 良いことに目を向けようと思って、グレイスは笑顔を浮かべた。ちょっと無理はしたけれど。
「ええ。ありがとう」
 受け取ったグラスはオレンジジュースが入っていた。ルージュが落ちないように気をつけつつ飲む。良いオレンジを使っているようで、酸味が少なく、むしろ甘かった。その甘味がグレイスを落ち着けてくれたのか。
「こんばんは、グレイス」
 今度はまた違う親戚がやってきても、にこっと笑顔を浮かべて「こんばんは、本日はお越しいただきありがとうございます」と、素直に言うことができたのだった。

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