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 戸惑った気持ちでフレンの翠色の瞳を見つめているうちに、扉がこんこんとノックされた。
「はい」
 それで視線は外されてしまう。フレンはそのノックに反応して扉へ向かってしまったのだから。グレイスはほっとするやら、どこか惜しくなるやらであった。
 結局わからないのだ。自分がどうしたくて、そしてどうするのかが。
 婚約発表はそのまま受け入れるけれど、そのあとのこと。
 でも、今考えても仕方がないことはわかる。今のグレイスがすべきことは、「ありがとうございます」と粛々とお礼を述べ、受け入れる返事をすることなのだから。
「さぁ、お嬢様。参りましょう」
 フレンが近付いてきて、手を差し伸べてくれる。グレイスは椅子から立ち上がった。
 フレンの白い手袋の手を取った。その手はほんのりあたたかくて。
 忠誠を誓うくちづけをくれたときと同じあたたかさを持っていて。
 ほわっとグレイスの胸を熱くした。フレンのあたたかな手は、いつもグレイスに安心をくれる。
 今は目の前のことに集中しよう。フレンがエスコートしてくれるのだ。きっと大丈夫。
「ええ。よろしくね」
 いつも言っているように、フレンに告げる。フレンもいつも通り、ふっと笑って「お任せくださいませ」と言ってくれたのだった。

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