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11話 追手の襲撃と勇者たち(2/3)

 気配を追った先にいたのは、あの賞金稼ぎのバルザだ。二メートル近い細身の体に、強力な魔法をもつやつだ。何度かともに仕事をしたことがある。

 今回は俺を追ってきたのか、それとも別かはわからない。ただ、敵と思っていれば間違いない。奴は俺の気配を察したのか、ゆっくりとこちらを向く。

「よう、レン……」

「よう、バルザ。掃除か?」

「ああ、掃除だ。勇者のな」

 奴は時折、敵対する”勇者”と名乗る人種を排除しに、魔法界へきていた。
決まって、膨大な魔力が尽きるほど浪費して帰還してくる。無茶なことばかりしているから、その隙を突かれる。そのおかげで、散々な目にあうことも、そう珍しくはないようだ。

「なら用はない……。三匹は掃除した」

「……そうか。お前に用があることは、引き受けない」

「難儀だな」

「難儀さ」

 これが奴なりの真心だろう。そういうや否やバルザは、殲滅魔法を唐突に自らの背後に放ちはじめた。

「おっぱじめるぜ!」

「おっぱじめてくれ……」

 クールそうな顔つきをしていながら、やることは出鱈目なほどの魔力量で一気に殲滅する脳筋野郎だ。俺は、奴の狙う方角とは異なる場所の気配を追うことにした。

――突然、脳裏に東京の町の喧騒がどよめく

 これは、元の持ち主の記憶が何かに反応したのかもしれない。
俺の脳裏に、俺が知っていたのと異なる町が思い起こされる。

 転生二度目が、元の日本人だからだろうか。互いの記憶が故郷を突然懐かしむ。
もう二度と戻れないあの世界とそして知り合い。俺はとくに友達など特定の人とは、仲よい風を装うことはできても、心の底からはムリだった。

 なぜなら人とあった日は、家に帰るとドット疲れが出てしまう。ひとりでいることが好きで、常にひとりだった。

 あの同郷と思われる勇者たちは俺の手にかけたとはいえ、あそこまで心底仲間を思うのは、少しだけ羨ましいとすら思えた。
 ただ今の俺の故郷は、悪魔として転生した場所だ。俺なりに愛着はあったし、わずかな仲間とも出会えた。やはり、同郷の奴はかけがえの無い存在だと思う。

 俺にとってのその存在は、リーナやギャルソン。他に片手で足りるぐらいだ。

 一瞬たりとも決意が揺らぐことは無いと思っていた物の、人も悪魔も心はうつろいやすいのか。こんな状況だというのに、過去の記憶が足踏みさせる。

「チッ……」

 なんだってこんな時に。思わず、こめかみを抑えていると視線の先にニヤつく女がいた。

「あら、あらあら……。レンたら、随分と可愛くなったのね」

「アルーシャ……」

 この女はある意味、かなり最悪の部類だ。幻覚を見せる魔術は、超がつくほどの一流所だ。そいつがいるのは、今の俺だとかなりまずい。

「覚えていてくれたのね、嬉しいわ」

「……」

 余計なことは、言わないに限る。

「あら、せっかく昔話を思いおこさせてあげたのに、お礼の一つも無いわけ?」

「……」

「無口なとこも変わらずなのね? あたしね、レンがいなくなって気がついちゃったの。何かわかる?」

「……」

「あなたのことが、とっても好きだってことにね!」

「……」

「照れなくていいのよ? とくに好きなところはね。懸賞金よ! あなたにかけられたね!」

 さらに幻覚が強まるのを感じる。俺自身が今ここに立っているのか、それとも立たされているのかまるでわからない。今目の前に見えている風景は、アスファルトの上に佇み何かが迫り来る。それが何かはわからない。

「クッ……」

 どういうことだ。ダークボルトを放てないでいる。どこかもう一人の自身が止めているようにすら感じる。完全に奴の術中にハマるとは、油断しすぎた。

 何か熱いものを感じる。焼けるような熱さに近い。それは俺の横っ腹だった。すぐさま触れると滑りがしたのは、俺の血だ。

「素敵ね! 素敵! 素敵スギ! ねえ死んで?」

 あの女の歓喜が耳障りなほど響く。今度は体が思うように動かない。

「断る!」

「このナイフね。フェンリルの牙から作られたと、言われている物なの。さすがに、レンの体にも刺さるのね〜」

 グサリと今度は反対側の腹を刺されて、ようやく視界が元に戻る。愉悦にひたるイカれた表情でアルーシャが、勝利目前といった余裕をぶちかましている。

「……」

「最高よ! 最高ね! 最高すぎルゥー」

「お前だけは必ず殺す。絶対だ」

「そんな状態で何を……い……」

 俺の目の前で首から上がないアルーシャは、そのまま仰向けに倒れた。地面に転がる頭は、もう何も言わない。

「レン!」

「エル……」

 どうにかエルに助けられたようだ。あのままだとかなり危険だったのは確かだ。

 エルは背中の羽で、俺を優しく抱きしめるかのように包み込むと、傷口がみるみるうちに塞がる。同時に先の幻覚も消えた。奴の恐ろしいのは、術者に関係なく一度でも発動すれば、一定時間はかかりっぱなしなのだ。

 さすがは”迷夢”と呼ばれるだけある。恐ろしい使い手だった。今回はエルのタイミングが悪ければ、俺は最後の手段を使うしかなかった。

「大丈夫?」

「大丈夫だ。助かった」

 これで追手は、バルザを省いて三体を滅した。勇者は三体。エルの方は襲いかかる者だけに限定して、殺傷したようだ。数は数えていないようで、何体かは不明だ。あとは、リリーと合流を目指す。彼女の場合は魔剣の力は使えないから、純粋に本人の力と剣技だけが頼りになるだろう。

 初っ端からわりと、濃いメンツばかりに遭遇した気がする。反対に薄いヤツは、そもそも首を突っ込んでこないか、遠くから観察して隙をついてくるか、このいずれかだろう。

 遠くの方にて、激しく魔法でやり合っているのが見える。あれはおそらく、バルザだろう。とすると相手は、勇者かもしれない。俺たちはまだ向かっていない方角に向けて走っていく。今回はどいつも手練れだ。

「無事でいてくれよ……」

 俺は思わず吐露した。

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