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9話 生殺与奪

ーー遠くの方で、何か地面が動く。

 あれからリリーが泣き止んだところで、次の目的地を思案していると動きがあった。周囲には何も無いため、突然動き出すと逆に目立つ。

「あのあたりは、教会があったところだ。恐らくは、地下の範囲結界かも知れない」

 リリーの言葉どおりなら、次に現れる奴は、少しばかり面倒かも知れない。理由は、神族に通じている可能性があるからだ。

 蓋をこじ開けるようにして地面から、ひとり顔を出している。安全確認でもしているのだろうか。問題ないと見るや否や、次々と人が這い上がってくる。よくもあれだけいた物だと、感心するほどの人数だ。ざっと見る限り、四十〜五十人はいそうだ。

 すると、目ざとくリリーを見つけたのか、ひとり駆け寄ってくる。

「姫様! よくぞご無事で!」

「あ、あああ……」

 歯切れが悪いリリーに対して、この騎士風情の若い男は、訝しげに俺たちを眺める。

「この方たちは?」

「ああ。すまない。私を|助けて《・・・》くれた方達だ」

「そうでしたか! なんとお礼を申し上げたら……?」

「どうかしたか?」

 この男は、エルをみる目がおかしいため、尋ねて見た。どこかで見たと言いたげで、決していい意味で歓迎をしているわけではなさそうだ。

 騎士風情の男はまだ何か言いたげで、一見恐る恐るという風に確認をしてきた。

「恐れ多くもお聞きします。そこにいるお方が、先の光を振りまく天使様に、酷似していましたので……」

「それで?」

 俺は続きを促した。すると、全身がワナワナと震え出す。

「あの光は、触れた者すべてが消え去ったように、思えました。まさか、本当でしょうか?」

「さあな。ただの通りすがりだ」

 何も馬鹿正直に答える必要はない。面倒なだけだ。ところが、この男は激昂しはじめた。

「よくもそんな抜け抜けと! 俺は見たんだよ! この目でハッキリとな!」

「そうか……。人違いだ。行くぞ」

 俺はとくに関わる必要性もないため、この場から立ち去ろうとする。今度は俺の目の前に立ち塞がり、今にも剣を抜きそうなほど、緊迫した空気をかもし出している。

「誰にそれをしたか、わかっているのかー!」

「俺以外にだ」

 どうやら茶番はここまでのようだ。剣を抜くと奴は、俺に襲いかかってきた。上段から振り下ろされる剣に対して、素早く懐に入り込む。振り下ろされる腕をつかみ背負い投げの要領で、投げはなつ。つかんでいた剣は、当然手から抜け落ちてしまう。

  投げ放つ直前に、途中で頭に掴みかえ、首をひねりそのまま折る。

 地面に打ち捨てられた騎士の男は、それ以上微動だにしなかった。

 こちらの騒ぎを聞きつけたのか、集団でこちらにやってくると開口一番お詫びを告げられる。俺は勘違いされて襲われたことを伝えると、また深くお詫びを申し伝えられた。

 俺は不信感しかなく、何かを企んでいると見ていた。理由は、司祭の手に握られたある物が言い表している。それは、神族に捧げる短剣が握られていたからだ。

 俺はエルに目配せをすると、突如六枚の羽を解放させた。それを見たここにいる人らはすべてひれ伏せて、仰ぎ祈りを捧げる姿勢でいる。お構いなしにエルは実行した。

「執行者の戦鎚!」

 両掌を胸の前で合わせる動作とともに、突然空気が重くなる。次の瞬間、ここにいた人らすべてが、押しつぶされた状態になる。

 こういった者たちは、生かしておいても利点が何もない。これで事実上、リリー以外はすべて殲滅して、王都は滅んだ。

 
――来るか?

 なんの気無しに俺は声をかけた。

「私も……連れていってくれ。もう人族ではないし、居場所もない」

 彼らがミンチになったあと、俺たちは方角を決め歩き出す。リリーはついていきたいといい、俺たちはそれを承諾した。なので、今は一緒にいる。

 俺たちは黙々と、次の目的に向けてひたすら歩いて行く。

 魔剣はリリーの手元に戻り、かつての禍々しさは鳴りを潜めた状態だ。背中で担がれたまま、眠っているようにすら見える。エルにより屈服させたことで、力が抑えられているらしい。あとは実戦で、確認するだけだろう。

 問題は俺の方だ。

 一つだけ気になったことは、アルアゾンテから貰った銀の指輪は、召喚リングではない。理由は、指輪の裏側に刻まれている文様が違う。

 他の異なるところは、適当に中指にさしたところ、リング自体が変化したことだ。尖った歯が多数生えている魚の顎の骨格だけのような口になり、俺の指を食らいついたまま外れない。しかもわずかながら、血を吸っているような感じだ。

 リングの形状は、ちょうど上顎と下顎の骨格だけの形になり、銀色と金属質感は維持している。

「魔法生物……」

 エルはいう。

「魔法生物?」

 それ以上はわからないらしく、検討もつかないそうだ。

 俺ははじめて手にするこの顎だけの骨格指輪は、奇妙の一言に尽きる。今はこれ以上、何をどうすればどうなるのか、検討がつかない。

 次向かう町では、焼印師について書物に記載があるか探す予定だ。

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