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5話 召喚師

「ヤメロー! ウワァァー」

「ギャー! 俺の……」

「お母さーん! 足、なくなっちゃった……よ……」

 誰も彼もが泣き叫び、祭りばやしのようにすら聞こえてくる。

 突如訳もわからず襲いかかる力の奔流に、誰もなすすべなく命を散らしていく。
どうしたって彼らに生きるという選択肢は、今日俺がここにきた時点でない。

 俺は、ダークボルトをうねらせて、すべてを飲み込み手早く消滅させた。
はじめの一撃以外は、ほぼ一瞬で蹴りをつけた形だ。苦しませるつもりも長引かせるつもりも、さらさらない。

 来訪した時の鮮やかで、人が賑わうこの町は一夜にして、廃墟の見本となった。
あれだけいた町の人数では、ここの門にある神族の彫像だと、墓標にしては小さすぎる。

 今回の殺戮で、一つ目の目的はどうやら達成できそうだ。うまいこと餌に食いついた愚かな奴の降臨を、目にしたからだ。

 さきほどから、高みの見物をしている者が、上空から眺めていたのは知っている。
時間をあまりかけずにしたせいか、魂を求めるあの召喚師はやや不満そうな顔つきだ。

 一瞬にして奪い去るのと、苦痛を伴うのでは魂の美味さが変わるからだ。

 敵対行動をとるわけでもなく、俺が殺した人らの魂をかき集めて、吸い込んでいる様子すら見てとれる。
見た目は恐らくまやかしで、あれは鬼だ。奴らの今までの狡猾な言動を思い起こして、内心歯噛みした。

 俺は、壊滅したこの町の中央に立ち寄る。

 そう、ひとりほくそ笑む鬼と思わしき奴が、突如地面まで降臨してきたからだ。
この場に似つかわしくない、執事風情の細めのスーツを着込んだ老齢の男は、慇懃無礼な態度で会釈をしていう。

「これは、これは……。多くの魂をありがとう。ご馳走様でした。……といえばよいかな?」

「……」

「名乗りが遅れたね。私は、ゴルドニアである」

「レンだ……」

「褒美を授けたくてな。やり方の如何を問わず、賞賛に値する。それは、大量の魂を短時間で効率よく捧げたからだ。しかもここ数百年もの間、そうしたことが無かったものでな」

「……」

「少し気になるのは、私が知る限り、苦痛を与えて死なすのが定石である。プロの悪魔であるならば、だけどのう」

「……」

「お主、アマチュアか?」

「いいや、ボランティアだ」

 これを合図に俺は、即座に間合いに入ると奴の足を払い、バランスを崩させる。ところが、立っているようであっても、わずかながら宙に浮いた状態であった。

 そのまま俺は半回転し、正面に向き直ったあと、掌底を奴の腹に当てた。
分厚く硬い筋肉に覆われ、びくともしない。

 ただ一つだけわかった感触は、あの肉体は”通る”器だ。

 ゴルドニアはニヤリとするだけで、何事もなかったかのように見せる。
俺は再度、掌底をあててそれを何度も繰り返した。

「いつまでそうしておるつもりだね? ボランティア君?」

「ああ。いつまでもそうしているつもりだよ」

 俺は、足元に落ちていた拳大の円錐状の石を拾い上げ、奴の口に突っ込む。
それと同時に頭をつかみ、正面から膝蹴りをくらわす。
ところがそれすら、なんともないような素振りを見せる。

「ムダだよ」

「ああムダだな」

 奴は攻撃に対してムダだという。俺は、この会話に対してムダだという。共通しているのは、ムダという言葉だけだ。

 俺はこの瞬間に間合いを詰め、奴の体に掌底と同時にダークボルトを放つ。

「グハッ!」

 想定外と言わんばかりの表情ですらあり、唖然とした表情のままゴルドニアは爆散して命を散らした。

 呆気ない幕引きである。

 奴の体は、霧散して身につけていた物と魔石だけが地面に転がり落ちた。
恐らく奴が戦う気で挑んできたら、今の状態だとかなり苦戦するはずだった。

「ボランティアは強いんだぜ? 知っていたか?」

 俺は地面に残った奴の魔石に語った。

――さて、どれが本物だ?

 奴の残した遺品を眺めていた。

 魔石が一個に、魔導書のような物が一冊。さらには、指輪や腕輪などの装飾品。どれもが独特な魔力をもち、単体で存在し続けられるほど濃い。

 大抵こうした物には罠がある。というより、正しい手順がソレっぽい物ほど複雑で、間違えると酷い目にあう。

だから、いかにもそれらしい物は恐らく、何かある。

 この中でいうと、一番ヤバイのは魔導書で、最も安全で可能性が高いのは、地味でシンプルな銀の指輪。
それが一番、可能性が高そうだ。

 基本的にこうした儀式はシンプルにやる。

 何千年と昔から、やることは大抵同じで、あとは引き金となる要素次第というところだ。

 俺は、近場で見つけた水漏れしなさそうな、適当な桶を見つけそこに指輪を置く。
さらにその上に、奴の魔石をおいて血をたらすのか浸すのか、どちらかで何かが起きるだろう。

 問題は”血”だ。今この体に流れる物は、人なのか悪魔の血なのかまたは、別の何かかわからない。

「やって見るか……」

 やらない選択肢はなく、それならばやる以外に他ない。
俺は自らの腕の表皮を切り、血を滴らせた。

 見た目は何も変わらない銀の指輪は、血に触れたからかもしくは吸い込んだからなのか、大きく脈打つように動いた。

 同時に、周囲が突然濃霧に包まれる。
まるで、スイッチのオン・オフの切り替わりぐらい突然だ。
 
 どうやらこの反応からすると、今回の謎解きは、正解のようだ。
霧は立ち込めているにもかかわらず、濃霧から這い出るかのように、少しずつ全容が現れてきた。

 俺の数メートル手前程度の距離で、巨大な二対の柱とそれに阻まれている重厚な扉が現れた。

 その扉は、一面がつや消しの黒で覆われている。表面には血管も浮き出ており、どこか異質さを際立たせている。

「さて、どうするか……」

 呟くと同時に扉が動きはじめ、圧倒的な力の奔流が雪崩れ込んできた。

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