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 フレンの翠の瞳は静かだった。いつもの、優しい色をしている。
 なのに同じ色の自分の瞳は随分、醜いことだろう。こんな目も顔もしたくないのに。させてきている婚約の話が憎くてならない。
「どうせなにかお話があるときと同じなのでしょう。お父様が発表される。お祝いされる。それだけよね」
 おまけに言った言葉も刺しかないものになった。
「そんなはずはないでしょう! なにしろ重大な……」
「同じよ、そんなの」
 ああ、もう。ここには居たくない。こんな自分を晒していたくない。
 グレイスはフレンの制止を無視して扉に手をかけた。開けて外に飛び出す。
「お嬢様!」
 うしろから呼ばれたけれど、止まるはずがない。勢いのままに廊下を駆けだした。ふんわりしたワンピースの裾を持ち上げて。
 走りながら、涙が滲みそうだった。あんなふうに言うことはなかったのだ。
 フレンにだって立場というものがあるし、完全に自分の八つ当たりであったのだから。情けないし、恥ずかしいし、フレンに悪い。
 けれど今、顔を合わせて和気あいあいと婚約の話の段取りなんてできるものか。
 グレイスはそこまで消化できていなかった。この話についても、自分の心についても。
 フレンは追いかけてこなかった。グレイスが裏口から庭へ出て、あずまやのベンチに腰を下ろして、ぽろっと涙が遂に零れても、フレンだけではなく、誰も現れなかったのだ。

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