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 グレイスの言葉を、表情を、フレンはどう取ったのか。困ったように、また微笑を浮かべたのだった。
「その通りですね。おめでとうございます」
 そう言われると思ってはいたし、自分がそう言われてどう感じるかもわかっていた。しかしどうしようもなく胸に突き刺さる。
 お祝いの言葉など、このひとからだけはもらいたくなかった、と思う。でもそんなこと、言えるものか。
 別に言ってもいいと思う。「気が進まないの」とか、そのくらいは。
 そのくらいなら「相手が気に入らないのだ」と思われるだけだろう。
 けれど、その中に入っている本音……フレンという想い人がいるから……というものがある限り、そんなことすら言えなくなってしまう。
 それを読み取ったように、フレンのほうから口に出した。
「お気が乗られない、ですか?」
 またしても言われたくない言葉であった。これでは、そうとも違うとも言えないではないか。グレイスは黙ってしまう。
 フレンはやはり困ったような顔をする。沈黙がその場に落ちた。
「……突然のお話ですからね」
 フレンが口に出した、その言葉はグレイスに寄り沿うもので。今度は、かっと胸が熱くなった。
 かばうように言われて嬉しいだとか、この話を受け入れられていない自分が恥ずかしいだとか、あるいはそれを知られてしまって嫌だとか。違う意味の感情なのにどれも妙に熱かった。
「本当にそうね! ……ちょっと出てくるわ」
 それが『庭に出てくる』という意味なのは、フレンはよくわかっている。けれどそれは「はい」とは受け入れられなかった。なにしろ話、しかも大事な話の途中なのだ。
「お嬢様、まだ終わっておりませんよ」
 慌てたように言われたけれど、グレイスは立ち上がって、フレンを見た。まるで睨みつけるような目をしてしまったのを自覚する。

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