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 かわいらしいドレスで支度をしているのに、あまり楽しくはなかった。普段ならこんな特別なドレスの試着ともなれば、メイドたちと一緒にはしゃいでしまうのに。今回ばかりは楽しいはずがあろうか。
 しかしリリスは特に気付かなかったようだ。普段と同じように明るい顔と声で試着を進めてくれている。
 こんなにかわいらしいドレスを着るのに。一番近くで見るのは恋している相手ではなく、別の男性なのだ。そう思っただけで、もう今から憂鬱だった。
 馬鹿なことだと思う。今までだって、別にフレンが一番近くだったというわけではないのだ。恋仲などではないのだから。
 ただ、グレイスが無邪気に「素敵でしょう」と、ある意味見せびらかすようなことをして、一番に見せていたのは子供の頃からそうであったし、フレンもにこにこと「とても素敵です」と言ってくれていただけなのだ。今となってはそんなこと、おままごとのようだったとも思ってしまう。
「さぁ、次はメイクも試してみましょう。先日、新しいアイシャドウを買いましたでしょう。お嬢様が特にお気に召した……」
 確かに先日、雑誌を見て新作だというかわいらしいコスメを見つけていた。それを街から取り寄せてもらったのだ。外の領、もっと栄えている街から仕入れたものだという。
 見たときにはとても心躍って、「特別なのだから、誕生日パーティーでつけてみるわ!」と決めていたのに。なんだか色あせてしまったような気持ちになった。コスメにはしゃいだ気持ちも、かわいらしく豪華なパッケージに入ったアイシャドウすらも。
 でも断ることなどできるはずもない。グレイスは「そうね。お願いするわ」とだけ答えた。
 でもあまり素っ気ないと、なにか……気が進まないのだと思われるかもしれない、とやっとそこで思い至った。
 メイドや使用人たちには婚約の話などまだ通っていないだろう。だから誕生日パーティーでなにがあるかなど知らないはずで。なのでグレイスは意識して笑みを浮かべた。

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