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41章 国王の話

 母親が出て行ったあと、ミライはゆっくりと布団から出る。

「仕事をクビになったときは、どうしようかなと思いました。路頭に迷うのを覚悟していました」

「セカンドライフの街」においても、ホームレスの人たちはいるのかな。アカネが見ていないだけで、実際は森などで生活している住民もいるかもしれない。

「一時的であったとしても、外で生活するのは耐えられません。自分の家の中のぬくもりを感じていたいです」

 ホームレスは自由ではあるものの、プライバシーの観点に大きな問題がある。女性としては、誰かに干渉される生活は避けたい。

「アカネさんのおかげで、家族の生活は安泰です。本当にありがとうございした」

「感謝されるようなことはやっていないよ。純粋に応援したいと思っただけだよ」

 ペットで心を癒せるなら、1億ゴールドくらいは安いものだ。大金を使用したとしても、ストレス解消につなげるのは難しい。

「ペットにしっかりとエサをあげてね。元気のないペットだと、こっちまで辛くなるよ」

「わかりました。アカネさんのためにも、ペットたちにしっかりとエサを与えます」

 すぐに元気にはならないだろうけど、徐々に回復していくと思われる。次回にやってきたときは、動物たちの元気な姿を見ることができるかもしれない。

「いつになるかはわからないけど、恩返しをしたいと思っています」

 ミライはよくいうならば実直、悪くいうならば不器用な性格をしている。狡賢さ、いい意味でサボる気持ちを身に着けるようになったら、生きやすくなりそうだ。

「アカネさんは思っていたよりも謙虚な女性ですね」

「そうかな」

「それだけの力を持っていれば、権力志向になりがちです」

 権力を持ってしまえば、面倒な仕事が増えることになる。庶民の立場をキープしたほうが、ゆ
ったりとしたセカンドライフを過ごしやすくなる。

「『セカンドライフの街』では一〇年に一度、国王を決めるための選挙が行われます。立候補してみてはいかがでしょうか」

「セカンドライフ」には国王がいたのか。マツリからそのような話は聞いていなかったので、意外な印象を受ける。

「私はいいよ。一般庶民の方が合っているから」

 政治家になると、自宅に戻る機会がさらに減少することになる。念願のマイホームが、ただの置物になりさがるのは避けたい。

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