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38章 寄付

「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

 二人には末永く営業をしてほしい。アカネはその思いを込めて、手元から1憶ゴールドを取り出す。莫大な収入を得たことで、使いきれないほどの所持金をかかえることとなった。

「とっても楽しかったので、特別料金を払います。店の運営資金にしてください」

 女性店員は金額の多さに、白目を剝いてしまうこととなった。 

「アカネさんが生活できなくなってしまいますよ。それでもいいんですか」

「私は仕事、ダンジョンで稼げるので、これくらいならどうってことないですよ」

 現時点の所持金は1000憶ゴールドくらいとなっている。1憶ゴールドを寄付したとしても、痛くもかゆくもない立場なのである。お金が少なくなれば、ダンジョン探索、仕事だけでお金を増やせばいいだけの話だ。

 アカネは残りの9憶ゴールドを見せる。本日はストレス解消のために、10憶ゴールドを準備した。いいところがあれば、全部使いきるつもりでいた。

「私は大丈夫です。お金に困ることはありません」  

 残金については家に置いてある。放置したままだと、泥棒に盗まれるリスクがある。家には魔力の結界を貼っておいた。人間の道具では、到底破壊できないようにしてあるので、盗難被害に遭うことはない。

「セカンドライフの街」には、銀行が存在しない。それゆえ、お金を自分で管理する必要がある。その部分については、面倒だと感じる。 

「私のためにも受け取ってください。ここを利用できなくなったら、心を癒す場所を失うことになります」

 母親は大いに迷うものの、最終的に自分の思いを優先した。

「ありがとうございます。これで安定した運営ができそうです」

 ペットの量が多すぎるため、エサ代だけでかなりの経費がかかる。他の費用も追加されるため、利用客が少なければ大赤字になるのは避けられない。

「3ヵ月前に病気で亡くなった夫の遺志をついて、ペットショップを経営しました。赤字続きで、お金が底をつきそうでした」

 利用客はそれなりにいたものの、あれでは足りないのではなかろうか。5倍、10倍くらいの客が来て、初めて元が取れそうな気がする。

「ペットに餌をやらなければいけないとわかっていても、稼ぎが全然足りません。それゆえ、お客様のエサに頼っているような状態でした」

 閉店間際のペットショップはどこもこんな感じなのかな。動物の健康状態が、店の体力を示しているのかもしれない。

「娘は赤字なのを知っているのか、無理をして働いています。母親としては心配になります」

 目的のためなら、自分の身を犠牲にして働く。現実世界でそのような生活をしていただけに、ミライの気持ちがわかるような気がした。 

「今日も無事で帰ってくることを、母親として切に願っています」

 母親の願いが通じたのか、ミライが家に帰ってきた。

「おかあさん、ただいま」 

 起きているにもかかわらず、瞼がくっつきそうになっていた。眠気を我慢したものと思われる。

「ミライ、身体はだいじょうぶなの」

「うん。だいじょうぶだよ」

 二本の足でバランスを取ることができていなかった。すぐに治療をしないと、かなり危ないのではなかろうか。

 ミライは体力を失ったのか、地面に倒れることとなった。アカネはすぐに、回復魔法をかけることにした。彼女だけは絶対に助けたい、その思いがふんだんに詰め込まれていた。

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