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35章 格差社会

 50くらいの女性の頬はげっそりとしていた。完全なる栄養不足である。

 ミライも骨が浮き上がるくらいに瘦せていた。二人は満足に食事をせずに、生きているのかもしれない。

「アカネさん、この前はありがとうございました」

「私は何もしていませんよ」

「ミライに回復魔法をかけてもらいました。あのときは全身に火傷していましたけど・・・・・・」

 顔に火傷を負った若い女性がいたのを思い出す。あのときの女性は、ミライだったのか。 

「アカネさんのおかげで、ミライを助けることができました。本当にありがとうございます」

「娘さんが助かってよかったですね」

「元気になってからは、一生懸命に生きようとするようになりました。前を向けるようになってよかったです」

 前を向いているのに、あんなにもやせ細ってしまうのかな。母親の言葉には、偽りが隠されているような気がしてならなかった。

「本来ならお礼をしなければならないのですが、生活はぎりぎりの状態です。ミライと私で出稼ぎをして、店を維持している状態なので、何もしてあげられません」

「気持ちだけで結構ですよ」

 社会で身に着けた社交辞令を、いかんなく発揮している。こういうときくらいは、図々しくなってもいいのではなかろうか。敵を作らないことを意識するあまり、嘘ばかりをつくようになっ
てしまっている。

「セカンド牛を調理してきますので、しばらくお待ちください」

 母親が奥に下がっていくのを確認したあと、ペットショップの中に入っていく。中にはどのような動物がいるのだろうか。

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