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あーちーちーあーちー その4

 え~……本店の地下冷蔵冷凍室で危うく凍死しかけた僕です。
 パラナミオがいち早く異変に気が付いてくれたおかげで九死に一生を得ましたが……いやぁ、マジでやばかったです。

 そんなことがあった翌日、ルアが工房のみんなと一緒にやってきました。
「店長、とにかく目一杯作ってきたぜ」
 そういうルアの後方には、氷嚢がめいっぱい詰まった木箱を山積みにしている荷車が何台も続いていました。
「いやぁ、ルア、助かるよ。まさかこんなに早く出来るとは思ってなかったから」
「へへ、アタシを誰だと思ってんだい? ルア工房のルア様だぜ。こんくらい朝飯前さ」
 僕の言葉に、ルアは笑顔でガッツポーズを作っていました。

 早速僕は、ルアが納品してくれた氷嚢を各支店に配布するように分けていきました。
 同時に、ヤルメキスとケロリンが量産してくれているバニラアイスも各支店へ配布するよう分けていきます。
 バニラアイスは溶けてしまわないように、各支店行きの魔法袋の中にすぐ詰め込んでいきます。
 魔法袋の中では、入れた際の温度が維持されますので溶ける心配がありませんからね。
 あと、地下の冷蔵冷凍室の冷属性の使い魔達が作ってくれた氷もそれぞれの魔法袋にわけて入れていきます。
 氷に関しましては、スアのプラントの木が川からくみ上げた水を使用していますので実質無料でいくらでもつくれるわけです。
 スアのプラントの木が吸い上げた際に浄化してくれていますので、水質も問題ありません。

 倉庫から引っ張り出してきたかき氷機も、どうにか各支店と、オト・テトテ・フクのそれぞれの集落などに1台ずつ配布出来るだけの数ありましたので、それを魔法袋に入れたところで準備完了です。

 僕は、各支店の代表を一度本店に集めました。
 そこで、かき氷機の使い方、バニラアイスの販売の仕方などを指導していきました。
 バニラアイスなどはすぐに食べないと溶けてしまいますけど、この世界の皆さんはこれを始めて手にするわけですからね。そういったこともしっかり説明してもらわないといけないわけです。
 それに、氷嚢の使用方法もしっかり指導してもらう必要がありますので、まずはみんなにその使い方をしっかり理解してもらわないといけません。
 氷嚢の使用の仕方につきましては、簡単な取り扱い説明書を作りまして、これを魔女魔法出版のダンダリンダに大量に印刷してもらっています。
「氷嚢を販売する際には、氷も一緒に買う必要があること、氷は圧縮してあるので見た目以上に重いこと、持ち帰ったら必ず魔石冷蔵庫にいれて保存すること、あと、この説明書をよく読むようにと、これらのことをしっかり説明した上で販売してください」
 僕は、各支店からやってきた担当者を前にして、そう説明していきました。
 途中
「店長、この氷嚢の蓋はどうやってしめるんです?」
「あぁ、それはここをこう……このチラシのここに書いてあるから、この通りにすれば開閉出来るよ」
「あ、なるほど」
 そんな感じでいくつか質問が出たりしたのですが、僕はその都度説明書の記載と併せて説明していきました。
 ほどなくして、皆からの質問も出なくなったのを確認した僕は
「じゃあみんな、よろしく頼むね」
 そう言ってみんなを送り出しました。

◇◇

 こうしてコンビニおもてなし関連店舗で一斉に冷製商品の販売が始まりました。
 各店の店頭では、かき氷機を設置してかき氷の実演販売を行っています。

 本店では魔王ビナスさんが店頭に立ってくださっていたのですが、いつものように着物をきちっと着込んでいる魔王ビナスさんは、汗一つかくことなく
「冷たいかき氷でございますわよ、お一ついかがですか?」
 街道を行き交う人達に、涼しげな笑顔で語りかけていました。
 後でお聞きしたのですが、このときの魔王ビナスさんはご自分の周囲に魔法を展開していて自分の周囲を冷たく冷やしていたそうなんですよね。
 で、その笑顔に誘われるようにして、お客さんが殺到していきました。
 
 2号店では副店長のチュパチャップが頑張ってくれました。
 麦わら帽子を被っただけのチュパチャップは、汗だくになりながらも
「冷たいかき氷ですよ~、いかがですか~」
 と、終始笑顔で声をあげていました。
 その頑張りのおかげで、2号店でもお客さんが途切れることなく列を成していたそうです。
 チュパチャップが倒れてはいけませんので、店長のシルメールが、チュパチャップを早めに休憩させたり、他の店員と交代させていたそうですけど、この日のチュパチャップは終始メインスタッフとして頑張ってくれたそうです。

 こんな調子で、4号店ではララデンテさんが温泉まんじゅうを焼きながら一緒に販売し、
 5号店では、ジナバレアが相変わらず超薄着で頑張ってくれました。

 ちなみに、3号店だけは盛況とはいきませんでした。
 でもこれは仕方ありません。
 何しろ3号店があるのは魔法使い集落の中ですからね。
 魔法使いの皆さんは
「最近暑いですわね」
「まったくですわね」
「少し集落ごと冷やしますか」
「そうですわね」
 とまぁ、そんな会話を交わしながら魔法使い集落全体に魔法壁を展開して、その壁の中を魔法で快適な温度にしてしまっていたんです。
 ただ、盛況とはいきませんでしたけど、
「あら、このかき氷、おいしいわね」
「このバニラアイスも美味しいわ」
 と、冷たいスイーツの方は新商品として受け入れられたようでして、それなりの売り上げをあげていました。

 テトテ集落には、この魔法使い集落から嫁いだ皆さんもいるにはいたのですが、集落全部を覆える程の魔法を使用出来る魔法使いさんはいなかったんですよね。
 なので。テトテ集落でも、かき氷やバニラアイス、氷嚢は良く売れました。
 オトの街、フク集落でも同様です。

 こんな感じで、今日1日で相当数のかき氷やバニラアイス、それに氷嚢が売れていきました。

 ……ですが

 本番はこれからなわけです。
 果たして今夜、氷嚢が期待通りの効果を発揮してくれるでしょうか……

 そんな事を思いながら、ガタコンベにあります巨木の家で寝ていた僕なのですが
「店長起きてるか!」
 夜明け前にも関わらず、大声をあげながら家のドアを叩く音とともにルアの声が聞こえてきました。
 慌てて起き出した僕は、玄関へと飛び出していきました。
「ルア、どうしたんだい、こんなに早くに」
「いや、すまない。でもさ、この感動を少しでも早く伝えたくてさ」
 そう言っているルアの手には枕タイプの氷嚢が握られていました。
「いやぁ、この氷嚢、すごいよ! ここしばらく暑くて寝られなかったんだけどさ、昨夜これを頭の下に敷いて寝たらぐっすり眠れたよ! こんなに爽快に眠れたのってホント久しぶりでさぁ、もう嬉しくて嬉しくて」
 ルアはそう言いながら僕の手を握って何度も何度もお礼を言ってくれました。
 その言葉に、僕も思わず笑顔になりました。

 でも、これは今日の大騒動の始まりでしかありませんでした。

「……え?」
 ルアを見送った僕は、そのまま5号店へと移動していったのですが……そこで思わず目を丸くしました。
 まだ夜が明けてすぐだというのに、5号店の前に長蛇の列が出来ていたのです。
 で、皆さんは僕を見るなり、
「あ、店長さんが来た!」
「店長さん、あのヒョウノウ? とか言うのを売ってくれ!」
「すごく冷たくて気持ちいいって聞いたのよ、私にも売って」
「こっちもだ」
「こっちは氷の追加を売ってくれ」
 そんな声が一斉に上がり始めました。
 
 ちょっと、これは尋常ではありません。
 嫌な予感がした僕は、行列を成している皆さんには少し待って頂くようにお伝えしてから、各支店の様子を見て回ったのですが……

 案の定、3号店以外の全支店で店の前に長蛇の列が出来ていたのです。
 昨夜のうちに氷嚢の噂を聞きつけた皆さんが、開店を待ちきれずに各支店前に殺到していたのです。
 これ、あくまでも昨夜のウチに噂を聞いた人達なわけです……朝になって噂を聞きつけた皆さんがこの列に加わるかもしれないと思った僕は、各支店の店長に即座に連絡を入れて緊急事態を伝えました。
 各支店の店長には通信魔石の指輪を持ってもらっていますので、こういう時、すぐに連絡を取ることが出来るようになっています。

 で、みんなに本店に集まってもらいまして、今日ヴィヴィランテスが弁当類を配布する際に一緒に配ってもらう予定にしていた荷物をその場で手渡していきました。
「すまないけど、氷嚢と氷の追加分の対応だけでもしてもらいたいんだ。おそらく氷嚢を中心に今日はお客さんが殺到すると思われる。追加も随時配布するのでよろしく頼むよ」
 僕の言葉を聞いたみんなは、
「お任せください、店長」
 と、本店のブリリアン、
「了解したぜ店長!」
 と、2号店のシルメール、
「クローコにバチッとおまかせ! みたいな!」
 と、4号店のクローコさん
 それぞれ返事を返しながら店に戻っていきました。

 さて、僕もこうしてはいられません。
 5号店用の魔法袋を手にした僕は、制服を着ながら5号店への転移ドアをくぐっていきました。

 空は夜が空けたばかりだというのに、早くも快晴です。
 どうやら、今日も暑くなりそうです。

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